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引継ぎ審神者は諦めた










その審神者は幼い頃から人付き合いが苦手だった。

人見知りが激しく、家族以外とはまともに話せない。








小学生の時も見知らぬ男に道を尋ねられたがどもって喋れなくなり、上手くかわす事が出来ずに誘拐されかけた。
されかけたというのは、たまたま通りかかった人が声を上げてくれたからである。
もしこの人が通りかからなかったら確実に連れ去られていただろう。



そして、誘拐未遂に遭った娘を心配した親は、何故か娘にあらゆる武術を習わせた。
親曰く、「何があっても自分で対処できるように」との事。



お陰で、娘はとても強く育った。
しかし、人付き合いが苦手なのは変わらずで、身体は強くなっても心の成長は止まったままだった。










そんなある日、政府から審神者になって欲しいと言われた。
何度も言うが、この娘は人付き合いが苦手である。
刀剣男士なるものと上手く付き合えるとは思えない。

そう思ったが、親もこのままではいけないと思ったのか何なのか。

笑顔で頑張れと送り出された。
本人の意思はない。










そうして研修を終えて連れて来られた本丸はすでに刀剣男士がいた。

娘は年老いて引退する事になった審神者の本丸を引き継がされた。



重ね重ね言うが娘は人付き合いが苦手である。
あまり人と関わらず黙々と勉強していた結果、主席となっていた。
そして、引退する審神者が彼女なら安心だと引き継がせたのだった。




娘は新しい本丸で徐々に刀剣を増やしていきゆっくりと慣れていこうと計画していたのだが、人を避け続けた結果がこれでは意味がない。
しかも、嫌だと主張する事も出来ずに、気が付いた時には本丸の玄関の前に立っていた。















それでも、逃げる事も出来ない。

最初の頃は審神者もせめて仕事の話くらいは出来ないと…と思い、積極的にとはいかないが刀剣男士達と会ったら挨拶をしていた。

しかし、刀剣男士達は事あるごとに審神者と前任を比べ、審神者に辛く当たった。

「主様に会いたいです」
「主はもうもどらないのかな」
「何が主席だ。主とは比べものにならん」

などと日々言われたが、反論もろくに出来ない審神者。
いつも黙っていた。










いつまでも、悲しんでなどいられない。



そろそろ落ち着きましたか?
出陣をお願いします。



と、政府から通達がきた。





普通ならここで刀剣男士達に話すのだろうが、審神者は考えていた。


これを彼らに言ったところで出陣してくれるのだろうか?と。

そもそも、敵ってどれほどの強さなんだろうかと。






そして、彼女はゲートの前に立つ。
とりあえず様子見にと、厚樫山に飛び込んだ。



とりあえずで行く場所ではない。











しかし、彼女は無事に帰還した。

今まで鍛えてきたお陰だろう。

刀が弱点というか、本体なので、審神者は刀を真っ先に折りに行った。
自慢の脚力で一気に懐に飛び込み、脚を振り上げ刀を折る………を繰り返した結果、彼女は勝利した。



そして、報酬が入っている事に満足すると同時に確信する。





もう、一人でいいや……と。





わざわざ刀剣男士達と会話する事もない。
一人でやっていこう!



人付き合いが苦手だが、行動力はそこそこあった。

その日から黙々と任務をこなしていった。








数ヶ月後



「審神者、最近見てないな」

「あれ?そもそもいるの?」

戦場を駆けているせいで気配が希薄になった審神者は今日も敵と戦っている。






「独り万歳…」

刀剣男士達とのコミュニケーションを完全に諦めた審神者は敵の屍の上で小さく呟いていた。












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