引継ぎ審神者は大丈夫
その審神者は人付き合いが苦手である。
しかし、今ではたどたどしいながらも刀剣男士達と仲良く過ごしている。
「にゅ、入院…」
その日、審神者の母が体調を崩し入院したと連絡が入った。
大した事はないそうだが、一週間程の入院が必要との事。
「どうなさいますか?こういう場合でしたら、すぐに許可はおりますが……」
本来、審神者は本丸と演練場、城下町しか移動出来ず、現世に行くには許可を取らねばならない。
しかも、書類等を提出し、それから政府職員が審議し、許可がおりるのはさらにその後になるため、かなり時間がかかる。
だが、親や親戚に何かあった時は特別だ。
「行く…」
「では、報告して来ますね」
この場合は既に上司等が知っているために書類等は省かれ、こんのすけが報告するだけ。
「主、誰を連れて行くの?」
「やっぱり国行?」
横にいた蛍丸と愛染が問いかける。
「んー……」
いつもなら真っ先に明石を指名するが、審神者は悩んでいる様子。
「クジとか、作ろうか」
「おう!楽しそう!」
楽しそうにペンやら紙やらを取り出す審神者と愛染を見ながら、蛍丸は思う。
(進歩したなぁ…)
視線も合わなかった頃が、なんだか懐かしい。
「俺もやる!」
笑顔の愛染と微笑む審神者。
二人に飛び付き、蛍丸もクジの作成に取り掛かった。
「本当に、俺で良かったのか…?」
「山姥切殿!今更何を言ってるのですか!我々がしっかり主殿を護らねば!」
「狐、しっ!」
審神者の横には現世の服を着た山姥切と鳴狐。
あまりぞろぞろ連れても良くないと、当たりクジを二つ入れたところ、クジを引き当てたのはこの二人だった。
さすがに布を身につけるわけにはいかないために、山姥切にはパーカーを着せた。
そんな彼はフードを被り俯いている。
鳴狐にもパーカーを着せた。
頬面は付けられないために、マスク。
ちなみにお供の狐は、鳴狐が肩にかけているトートバッグの中。
「病室、こっち」
受付で病室を聞いて、審神者は二人を促す。
(本当に、進歩したな…)
以前なら受付すら難しかっただろう。
出会ったばかりのおどおどした彼女を頭に浮かべ、山姥切は歩き出した。
「大した事ないのに、大丈夫なの?」
「うん、大丈夫」
母親は元気そうで、むしろこちらが心配された。
「それにしても、神様がいるなんて不思議な感じねぇ」
「私も、最初はそうだった」
「イケメンと暮らせるなんて、羨ましいわぁ」
「お、お母さん……お父さんが悲しむよ?」
楽しそうに話す母娘に、山姥切と鳴狐も自然と頬が緩む。
「でも、ほんと安心した。心配だったのよ?ちゃんと神様と協力出来るのか………アンタの事だから、一人でなんかやり出すんじゃないかって」
「…………」
「あら?アタリ?」
さすが母親。
審神者が初期に単独行動していたのは何となくわかるらしい。
「母親はアンタが戦っているのは知っているのか?」
「知らないと思う。守秘義務もあるから………神様と仕事するとか、適当な話しかしてない筈だし……」
「その説明はどうなんだ」
「た、例えばだよ」
こそこそと小声で話す山姥切と審神者。
「まぁ、でも……仲良くやってるみたいで良かったわ」
「うん、皆優しくて……こんな私を助けてくれてる」
「そう、本当に良かった…………ほら、そろそろ行きなさい!」
「うん」
「おや、そなた……」
母親と別れ玄関へと向かう途中、背後から声をかけられた。
「三日月、宗近…」
そこには三日月宗近が立っていた。
「あの時は、いろいろすまなかったな…」
「あの時?…………あ、」
ふと、思い出す。
城下町での出来事。
どうやら、この三日月は元同級生が連れていた刀剣らしい。
「主が、頬の骨にヒビが入っていたらしくてな……入院していたのだ。本日、退院でな……」
「えっ」
途端に顔を青くする審神者。
「気にしないでくれ。むしろ、感謝しておる。暴力こそないが、主は暴言が酷くてな…………これで、少しは大人しくなってくれると良いのだが……」
「………はぁ…」
「さて、そろそろ戻るか………ではな」
三日月の後ろ姿を見つめながら、審神者はほっと一息。
「い、行こうか……」
少し罪悪感はあるが、元同級生がいるとわかれば長居は出来ない。
三人は足早に病院を出た。
「………あの子を選んで良かった…」
「え?何か言いました?」
「あぁ、いえ………何でもないです」
「そうですか?はい、では点滴外しますよ」
とある病室の窓から、審神者達を見つめる老人。
(また、山姥切と鳴狐を見られるとは………)
「ちょっ………どうしました?」
「いえ、すみません。ちょっと……」
(人見知りが激しいと聞いて、悪い事をしたと思っていたが………大丈夫そうだ……)
「本当に、大丈夫ですか?」
「えぇ、すみません。大丈夫です」
涙を拭い、老人は看護婦へと向き直った。
「お土産、買って帰らないとね」
「そうだな」
「短刀達には、お菓子……」
「そうだね」
病院から離れた三人は、本丸で待機している者達を思い浮かべながら、土産について語りだす。
「主殿!甘い香りがします!」
「あ、クレープ。食べようか!」
クレープ屋のを見付けた審神者は山姥切と鳴狐の手を取り駆け出した。
もう、心配はいらないだろう。
彼女は 、大丈夫。