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刀剣男士はほくそ笑む









その審神者は人付き合いが苦手である。

それでも少しずつ、刀剣達との会話は増えてきている。






「城下町…」


「はい。主さまは行かれた事がありませんでしょう?一度行ってみてはいかがです?」


こんのすけの口から出た城下町。

本丸に閉じ込められている審神者のためにある場所。

甘味屋に呉服屋、小間物屋、万屋もここにある。

審神者達の情報交換の場にもなっている。


城下町の事は知っていたが、人付き合いが苦手な審神者は一度も行った事がなかった。


「人、いっぱい…」


「まぁ、そうですね…」


こんのすけもこのままでは良くないと思ったのか、横に座る浦島虎徹に目を向ける。


「ん?あー……主さん、俺行ってみたいなー」


「えっ」


「楽しそうだしさ!周りは気にしないで普通に買い物とかしようよ!」


「そうですよ!ささ、主さま!行ってらっしゃいませ!」


これを逃してはいけない。


浦島を促し、こんのすけは審神者を部屋から追い出した。











「主さん、大丈夫?」


「……だ、だいじょばない…」


浦島も審神者の事は聞いている。

しかし、このままでは良くないと思いこんのすけに促されるまま、審神者の手を取り城下町へ。


肝心の審神者は挙動不審。

忙しなく視線をさ迷わせ、小刻みに震えている。


「何か買うものある?」


とりあえず、進まねば。

入口で立ち止まったままでは始まらない。


「わかんない…」


打ち合わせなく追い出されたのだから、当然だろう。

何か足りない物はあっただろうか。

考えるが出てこない。


通常なら出てくるのだろうが、審神者は今いっぱいいっぱい。

浦島も彼女が気になりそれどころではない。






「あら?もしかして…」


突然、声をかけられ審神者は肩を跳ね上げた。


「主さん、知り合い?」


下を向いたままだった彼女は、ゆっくりと顔を上げる。

そして、声をかけてきた人物を見て固まった。


「久しぶり、中学以来よね」


「…………っ…」


「何?相変わらずまともに喋れないの?」


クスクスと馬鹿にするように笑う女は、かつて修学旅行の京都で審神者を店に置き去りにした同級生の一人だった。


「へぇ、浦島を連れてるんだ。アンタのところはいる?」


自慢したいのだろう。

自分の方が上だと思いたいのだろう。


所謂ドヤ顔で。


連れていた三日月宗近の腕に抱き着きながら、元同級生は笑う。


「……………」


自分のところにも三日月はいる。

しかし、審神者は驚きと恐怖で声が出せない。


「羨ましい?まぁ、頑張りなさいよ」


それを勘違いし、元同級生は得意気。


「うちにも三日月さんいるけど」


しかし、浦島の一声で彼女の笑顔は固まった。


「はぁっ?!嘘?!」


「嘘ついてどうすんのさ。ね、主さん」


そう言って、浦島は震えている審神者を安心させるように彼女の手を強く握った。


「ふん、何よ。脇差なんかと仲良くしちゃって。明石も日本号も連れてきてくれない役立たず」


「ーーーーーっ!」


どうやら、元同級生は難民らしい。

明石と日本号が手に入らないために、短刀や脇差に苛立っていた。


しかし、そんな事審神者には関係ない。


何より、浦島を、自分の刀剣を馬鹿にされたのがたまらなかった。





審神者は元同級生の頬を叩いた。


思いっきり。






歴史修正主義者と闘う彼女が思いっきり叩いたのだ。

元同級生の身体は横に吹っ飛んだ。


「なっ、なにすんーーーーーえ?」


鉄の味と同時に、広がるガリッという硬い感触。


「………歯?」


歯が欠けていた。


「う、嘘!」


「うち、明石もいるけどさー…………明石は主さんが一人で三条大橋に行って連れ帰って来たんだよね」


「はっ?!そんな訳……」


「あれは驚いたわ、戦場で起こされるんやからなぁ」


「えっ?」


いつの間にか、元同級生の後ろには明石が立っていた。


「こんのすけはんに繋いでもろうたんです。部屋に居らへんから驚いたわ。あー、ついでに光忠はんから買い物頼まれました」


気だるげにメモを取り出して、審神者に手渡す。






そして、再び元同級生の側へ行き、


「うちの主はんな、蛍丸や愛染と仲良くて、よぉ三人であっちこっち行かはるんですわ。そんでもって、主はんが槍を払い、愛染が組み付き、蛍丸が一掃する……………ってのが、常なんやけど………………あんまりいじめよったら、爆発してうっかり………とか、あるかもしれませんなぁ……」


主の前、殺気は出さない。

しかし、目は冷え切っていた。

そんな明石に見つめられてはたまらない。


「い、行くわよ三日月!」


三日月の手を引き、元同級生は慌てて去っていた。






「はいはい。ほら、野次馬が集まる前に行きましょ」


「え、あ…」


未だに放心している審神者の手を取り、明石は歩き出す。


「明石、意地悪い顔」


「なんやと?」


横に並ぶ浦島の頭を小突きながら、明石はほくそ笑む。

浦島もまた、意地悪い顔を浮かべている。


「…………二人とも、ありがとう」


「「どういたしまして!」」


そんな二人に、相変わらずの小さな声で礼を言う審神者は、嬉しそうにはにかんだ。













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