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引き継ぎ審神者は欲しがった









その審神者は人付き合いが苦手である。


しかし、少しずつ刀剣達との会話は増えてきている。






「やった…!来た!来たよ!」


その日、珍しく興奮して審神者は鍛刀部屋を飛び出した。

廊下を駆ける彼女の手には打刀が一振り。


「きっ、来た!」


慌てた様子で開かれた襖。

粟田口派の大部屋。


審神者の興奮した様子に、粟田口派の者達はわっと声を上げた。


「主、叔父様来たの?!」


嬉しそうに問いかけてきたのは乱。


「う、うん!」


そう、審神者が握っていた打刀は鳴狐。


粟田口派のためにと打刀を狙って日々鍛刀をしていた審神者。

しかし、なかなか鳴狐は来ず、最近来た者達に連結するばかり。

だが、やっと来た。


「主さま、おめでとうございます!あと3人ですね」


尻尾を振りながら、こんのすけは嬉しそうに言う。






前任は大阪城の調査が始まった頃から体調を崩しがちになったらしい。

そのためにいない博多藤四郎。


鳴狐が折れた事で検非違使との戦闘を避けていたためにいない長曽祢虎徹。

(浦島虎徹は来たが…)


まだ先に進んでいないためにいない、日本号。


今、実装されているなかでいないのはこの3人。













「物吉殿のお陰でございますかねぇ」


庭にて粟田口の短刀達に囲まれてわたわたとしている鳴狐を眺めながら、お供の狐は呟いた。


「ボク、ですか?」


先日実装された物吉貞宗。

彼は幸運を呼ぶという。


「こうして皆様に出会えましたからねえ。物吉殿の幸運のお陰かと…」


「いえ、主様のお力ですよ」


尻尾を揺らしながら言う狐に、物吉は微笑む。


「主殿もお優しいですし」


物吉と狐が見つめる先には、こちらに向かってゆっくりと歩いてくる審神者の姿。


「主様、何か手伝う事はありますか?」


「………じゃあ、粟田口の皆を呼んでもらえる?光忠が、おやつをって……」


審神者の手にはずんだ餅が盛られた皿。


「はぁー……こんなに作って………自分、やる気ない言うてますのに」


遅れて審神者の後ろからやって来た明石はだるそうに手に持った皿を見つめる。


「あ、ボクが持ちます!」


フラフラと歩く明石に、心配になったらしい物吉は少し強引に皿を取り上げた。


「みなさーん!おやつですよ!」


そして、すかさず粟田口派を呼ぶ。

物吉の声に嬉しそうに声を上げながら、鳴狐と短刀達がわらわらと集まってくる。


「主殿も一緒に食べましょう」


「う、うん…」


去ろうとした審神者の袖口を引き、お供の狐は言う。

お供の狐の頭を撫で、審神者はその場に座った。











「美味しい、さすが光忠さん」


「そうですねぇ、鳴狐も喜んでますよ」


ずんだ餅を頬張りながら話す乱に応えるのは、お供の狐。


「叔父上、どうぞ」


「前田殿、ありがとうございます」


お茶を差し出す前田に礼を言うのも

お供の狐。


その様子をじっと見つめる審神者。


「主殿?どうしました?」


そんな審神者に問いかけるのも、お供の狐。


「………いい、なぁ…」


「へ?」


「私も、通訳欲しい…」


審神者の呟きに、その場にいる者達はぽかんと呆ける。


「………主殿、私はーーーーー」


「主は、大丈夫………」


お供の狐の口を塞ぎ鳴狐が口を開いた。


「俺より、喋れてる…」


そう言って笑う鳴狐。


「だから、大丈夫…」


頭を撫でながら言われれば、もう何も言えない。

顔を赤くして、審神者は下を向く。

鳴狐も耳が赤い。


恥ずかしそうにする鳴狐の周りには、桜の花弁が舞う。











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