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刀剣男士は企んだ









その審神者は人付き合いが苦手である。


少しずつ打ち解けてはいるが、刀剣達との仲はまだまだこれからといったところだろう。


ちなみに彼女は今、本丸ではなく現世にいる。


先日の演練で出会った山姥切を引き取るための手続きをしに来ていた。


「主さま、今更ですが……こんのすけだけで良かったのですか?誰か護衛をつけた方が良かったのでは?政府の管轄する建物とはいえ、安全とは限りませんし……」


「こんのすけがそれ言っちゃうの?」


審神者の腕に抱かれたこんのすけは、不安そうに彼女を見上げて問うが、審神者はあまり気にせず歩き続ける。


「長居はしたくない。さっさと手続きして帰ろう」


「そうですね…」


審神者の身を案じて返事をしたこんのすけだが、彼女の心の中は、「役人と必要以上に会話したくない。帰りたい」という思いでいっぱいだった。
















「さて、今のうちだな」


審神者がいない本丸では、大広間に刀剣達が揃っていた。


上座に仁王立ちしているのは鶴丸国永。


「どうしたの?鶴さん」


とりあえずお茶を…と、座卓に湯呑みを並べていく燭台切。


「今まで、俺達は前任が忘れられずに彼女に辛く当たってきた」


真面目に切り出した鶴丸に、皆顔を引き締める。


「それから、山姥切もやって来る」


「「!」」


その言葉に山伏と堀川が反応した。


「二人に驚きを与えたい!」


「あんたいつも投げられてるだろうが」


ぼそりと呟く大倶利伽羅。


彼はよく、審神者を驚かせたいと後ろから近付いたりしているのだが、毎度彼女に投げ飛ばされている。


「主はん、後ろからはやめて欲しい言うてはりましたよ」


「ただでさえ人と話すの苦手なのに」


「めっちゃ引きつった顔して投げてるよな」


来派の口撃に打ちひしがれる鶴丸。


「とにかくだな、俺は怖がらせたいんじゃなく………笑顔が、見たい…」


「笑顔か、確かに見たいけど………下手な事してまた引きこもられたらなぁ……」


燭台切も言うが、普通に話す事すら難しいのに、笑顔など見られるものだろうか。

それに、最近やっと皆と食事を取るようになったのだ。

また引きこもられたらたまらない。


「雀の餌やりの時は笑っておるぞ」


三日月の一言に、皆の視線が一斉に彼に向かった。


「ま、俺が近付いた瞬間に俯くがな」


ははっ、と乾いた笑い声を上げる三日月。


「拙僧も、主殿ともう少し話せればと思うのだが……」


「そうだな…」


声の大きな山伏と岩融は少し悲しそうに呟いた。


「兄弟が揃うのだ。主殿を交えて話せれば嬉しいのだが…」


うーんと、唸る山伏。


「考えたんだが、宴を開かないか?」


鶴丸の一言に、皆が顔を上げた。


「これを使ってみたくてな!山姥切も来るんだ!今更だが、歓迎会をしよう!」


いつ買ったのやら。

クラッカーを手に、鶴丸はニヤリと笑った。
















「よ、よろしく…」


「あぁ」


とある一室で、再会した審神者と山姥切。


お互いに手を握り、契約を完了させた。


「主さま、戻りますか?」


「もちろん」


さっさと帰りたいと言わんばかりに頷く審神者。


「あんた、そんなに人と話すのが嫌なのか?」


「…………」


だいたいの話はこんのすけから聞いていた山姥切は審神者に問うが、彼女は下を向いて俯くだけ。


沈黙は肯定。


「まぁ、俺もあまり話す方ではないがな」




ーーーードオンッ




部屋を出ようと取っ手に手をかけた瞬間、爆発音が響き渡った。


「……何だ?」


「もしや、歴史修正主義者が?!」




ビーーーーッ




何事かと思っていれば、次は警報音が鳴り響く。


「これは、間違いないですね」


ぶわりと毛を逆立てるこんのすけ。


「……………」


取っ手に手をかけたまま、審神者は耳を澄ましている。


「………近付いてくる」


その声に、山姥切は柄を握る手に力を込めた。


「こんのすけ」


「は、はい!」


「ナビよろしく」


「え?は?ふぎゅっ!」


審神者はそっとこんのすけの首根っこを掴み、着ていたパーカーのフードに押し込んだ。


「主さま?!」


「出ちゃダメ。しっかり、案内してもらうから」


「それは、構いませんが………まさか、ここから出るつもりですか?!敵がどれほどいるかわからないのに?!」


「ここに入って来られたら死ぬ。逃げ場がない」


窓のない狭い部屋の中。


逃げ場はこの扉だけ。


「確かに、そうですけど……」


「こんのすけ、私はこの建物の構造を知らない。頼りは君だけなの」


「わ、わかりました!」


(こんのすけとは普通に話せるのか……)


そんな事を考える山姥切に、


「………山姥切国広」


審神者は振り返り声をかけた。


「背中、預けた」


「………あぁ、任せろ」


スラリと刀を抜いた彼は、力強く頷いた。
















「あるじさまがかえってきましたよ!」


夕刻、門の側で見張っていた今剣が勢いよく大広間に飛び込んできた。


「よし!」


すかさずクラッカーを構える鶴丸。

彼の後ろで、短刀達も紙吹雪の入った籠を持ち待機。


だんだんと近付く気配に緊張が走る。


そして、審神者が襖を開けた瞬間、鳴り響くクラッカー。

舞い散る紙吹雪。


審神者も山姥切も目を見開き驚いた。


ほんのり色付く頬に、笑顔は見れなかったが手応えはあっただろうと、鶴丸は満足気に口角を上げた。


彼の企みは成功と言えるだろう。




しかし、数分後。

審神者の怪我に気付き、こちらも驚かされる事となる。











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