9−1



 


近頃、彩華殿は一人で出歩くようになった。

人が多い場所では、やはり怖くなってしまうようだが……。

「………」

仕事を終え、気分転換に中庭を歩いていたら、前方に見知った姿を見付けた。

「彩華殿…?」

『………』

木に寄りかっていた彩華殿に声をかけるが、返事がない。

顔を覗き込むと―――

「……寝ている…?」

閉じられた瞳、規則正しい寝息。
彼女は眠っていた。

「………複雑、だな…」

こうして、彩華殿が外に出るようになったのは喜ばしい事だろう。

しかし、無防備過ぎる。

「このような場所で寝るとは……」

眠る彼女の横に、静かに腰を下ろした。



雲行きは怪しくもなく。

(心の滲みは消えてしまったの)






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