1−2「曹操殿が死に、曹丕殿が死に……それでも、貴女は動かれませんか……」 『部屋に来て、いきなりそれかい?』 部屋の主は、司馬師を見るなり、嫌そうな顔をして、持っていた筆を置いた。 『こうして仕事をしてるんだ。何か文句でもあるのかな?』 竹簡を指差しながら、けらけらと笑う。 「文句はありません」 『だったら、』 「もったいない、と思っただけです」 『うん?』 「貴女は、とても賢い」 再び筆へと伸びた手を、司馬師に掴まれた。 「何故、何もなさらないのか…」 怒ってるようにも、悲しんでるようにも見える瞳で、司馬師は彩華を見つめる。 『子元、私は別にどうだって良いんだよ。平和なら、それで良い』 「……彩華殿…」 『そんなに言うなら君が頂点を取ればいい』 「私が…?」 『何度も言うけど、私は人前には出たくない』 「良いでしょう。しかし、貴女が言ったのです。私の天下を支えて頂きますよ」 『取ってから言いなよ』 「取りますよ。貴女を手に入れるためにも」 『あれ?何かおかしな方向に行ってるね』 「それとも、今すぐ私の物になりますか?」 『ははっ!やってみろ』 彩華は、するりと司馬師の腕から逃れ、扉まで移動した。 「忘れられてる…?この私が…?!」 実は、扉の前で待たされていた鍾会。 ―NEXT― << |