初めて彼女を見たときには、本音を言うと気味悪い幽霊かと思った。
「今日はお友達も来たんですね。みんなイケメンでビックリしましたよ」
彼女に検査の機械の前に座ってもらい付属の顔を固定する土台に、顎を乗せてもらう。
「あ、前髪は上げてくださいね。」
そう言うと彼女は慌てて前髪を両手でがしりと掴んで上に持ち上げた。
「それじゃあ、顎を乗せられないないでしょう」
私は、この子は真っ直ぐで少し不器用なだけなのだと思うようになったのは2回目にこの店に来た時。 4月になり高校入学と同時に独り暮らしを始めてたらしく、 今日のように眼鏡を壊してやって来たのは、 もう3回目。
私はお客さま用にいつも用意している黒いピンをポケットから出し、 さっと彼女の前髪を分け留めてあげた。
「…お手数おかけして…すみません…」
しょんぼりと項垂れる彼女は機械に顎を乗せる。
「はい、終わりましたよ。ではあちらでフレームを選びましょうか」
がさがさという感じで立ち上がり、彼女と店舗の方へ歩いていく。 なぜか下を向いている彼女。 私、何か気に触ることを言ってしまったのか…?
そこへ茶髪の子と金髪の子が我先にとやって来た。 この二人…犬みたいだな。
「いちる!いちる!眼鏡やめてコンタクトにしろよ!」
「…テメェ!馴れ馴れしく名前呼んでんじゃねーぞ… しかも呼び捨て…ぶっ飛ばしてやるから外に出ろ…」
テンションの高い茶髪の子とは対称的な金髪の子は、 織田さんを取られまいと必死なんだろな。 可愛いな。青春っていいなぁ。
コンタクト…前に薦めてみたのだけれど、頑なに拒否されたので今回も眼鏡を作る予定だったけれど。 眼鏡が壊される度に、顔に…目に…怪我をしたら大変だと思っていた。 この子達が薦めたらコンタクトも考慮に入れてくれるかもしれない。
「そうですよ!織田さん、コンタクトにした方が良いですよ。 こんなに綺麗な瞳の色をしてるんですから」
私の言葉で伏せていた顔をばっと上げた。
「うわぁ…」
茶髪の子がキラキラした眼差して見つめる。
「……いちる…その目…」
織田さんは前髪に瞳が隠れていないことを忘れていたみたいだった。 見ないでください!!そう言って外に出ようと走ったが、 黒髪の男の子とぶつかって止まった。
「綺麗な目だね、隠すなんて…もったいないよ」
後ろから金髪の子が、織田さんを抱き締めた。 何て言うかさ…カッコいい子がやるから絵になる絵になる。 男として、負けたなーとか。
「いちる…その青い目…超きれい」
金髪の子が彼女を自分の方に向かせ視線を合わせる為に屈む。 ピンを外し前髪で顔を隠す必死な彼女の姿に、 きっと瞳の色で小さな頃から大変な思いをしてきたのかもしれない。 多分それは、ここにいる皆、感じていると思う。
「ねぇ…隠さないで…いちる…その目で俺のこと見てよ…」
懇願するように優しく彼女の両頬を包む大きな手のひら。
「眼鏡よりもコンタクトの方が楽だぜー!」
大きな明るい声が店内に響く。
「確かにね…僕もこの伊達眼鏡、目頭が疲れるしね。 もし眼鏡壊れたらそっちの方が高くつくしね…。 まぁ今後壊されるようなことはさせないつもりだけど」
「……コンタクトの方が…安いんですか…?」
あれ?瞳を気にして眼鏡で隠してたんじゃないの? 値段に食いついてきたけど… 周りをチラ見するとイケメン三人が、無言の圧力をかけてきた…。
「そうですね…毎回買い換えるよりはコンタクトの方が結果的に安くなりますね」
営業スマイルを浮かべた私。 さぁ!是非ともコンタクトに!
「……コンタクトでお願いします」
彼女の一言で妙な一体感が生まれる。 そのあと彼女は、眼科が店内に併設されているので診察を受けた。
待っている間、イケメン三人は眼鏡をかけては、 あれが似合う、これは似合わねー!と遊んでいた。 すごい仲が良さそうだ。 観察していて名前も分かってきた。 金髪くんは姫野あまね。なぜかフルネームで呼ばれている。 茶髪くんは…茶髪バカ。 黒髪の伊達眼鏡くんはトワ。
彼女のコンタクトの在庫もあり、そのまま装着して帰すことが出来ると一安心。 さて、会計へとレジに向かい問題が起きた。
「………すっすみません…お金が足りません…」
アワアワと大慌で、今からおろして来ます!とパニくる彼女の手を姫野君が掴む。
「…これは眼鏡壊した奴らに弁償してもらう…だから俺が立て替えておく… それにこの辺ATMもコンビニも少し遠いし」
そういって後ろポケットから黒革の長財布を取り出す。 そして固まった。
「おいどーした!姫野天音!もしかしてここまでカッコつけといて、金がねーとか??ぶふふ」
茶髪バカくんがちゃかす。
「うっせ!今日そんなに入ってなかったんだよ…」
舌打ちしながら財布をしまう姫野くん。 溜め息をつきながら何も言わずカバンから財布を取り出したトワ君。 この子はしっかりしてそうで、何よりお金持ちの雰囲気が漂っている。
そして固まった。
「持ってねーのかよ!!ってか永遠は分かってやってんだろ!! ほとんど現金持ち歩かねーだろ! あーー!もう分かった!! 俺が払っとけばいいんだろ!!」
財布を出した茶髪くん。 その財布が…何とも…彼に似合わないとゆーか…似合ってるとゆーか…
「お前なんだよ!!その財布…がま口って…しかもピンクっ!茶髪バカ…お前は俺を笑い死にさせる気か…!」
「うっせ!ばぁーちゃんが作ってくれたんだよ!使ってると嬉しそうにしてくれっから!!」
「おめーは小学生か……っ…」
姫野君が大爆笑。 それを見たトワくんと織田さんもクスクス笑い出した。
織田さん…可愛いらしい顔を恥じずに出して 皆と仲良く笑う日がくるといいね。
騒がしい彼らを見送った後、 青春とは素晴らしいな…と、自分の学生の頃を思い出し、 仕事終わりに久々に高校の同級生を飲みに誘った。
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