黒縁眼鏡ヤローがいちるの右手を握って離さねー。
しょうがなく俺は左手を繋いでいる状態。

さらには後ろに鬼の形相の茶髪ヤローがついてくる。

おいおい…何なんだよ…この絵面は…。


「あの…私は1年C組の織田いちるです。こちらは友達の姫野天音くんで…
えっと…トワさんとそのお友達は…?」

背の高い俺らに挟まれていつも以上に小さく見える。
…なんか…可愛いな…顔はいつも通り見えねーけど…

「僕は1年A組の青柳…永遠って書いて"トワ"。後ろの彼は白木冬吾。
学校は違うけど同い年。
僕の彼氏だよ」

………は?今、こいつサラリとなんつった?

「初対面の奴ら…しかも姫野天音に言うなよ!!!」

後ろの冬吾が焦りながら永遠に詰め寄る。
つかさっきからなんで俺、フルネームで呼ばれてんだ?

「……こっ恋人さんだったんですね!すみません…私が声かけてしまったから…白木さんと帰るはずだったのに…」

いちるは食いつくポイントがズレていた。

「…はっ、別に俺らはいつでも会えるからいいんだよ!気にすんなよ!前髪!」

冬吾が放った前髪という言葉に抑えられていた怒りが復活。
彼女にはしっかりした名前をがあるんだよ。
俺がいちるの手を離した瞬間。

「彼女、さっき自己紹介しただろ?」

の、言葉を残し永遠は冬吾を殴りつけていた。
俺もびっくりするほどのスピードに、ふと蒼生が前に言っていたのを思い出した。

『喧嘩がめっぽー強い二人組の噂、覚えてる?デカイチーム組むわけでもなく…単独でやってたやつら。』

『あぁ、名前も顔も知らねーけどな』

『あまねは覚える気がないだけー。んでその片割れが…同じ学校なんだって!
あまねとどっちが強いかなぁー』

なんて話をしたな。
多分それがコイツらか。

「今日から冬吾のことを茶髪バカと呼ぶことにするよ」

地べたに倒れ込んでいた冬吾は、勢いよく立ち上がり永遠に泣きつく。
こいつ殴られたダメージなしか?
…にしても犬みてぇー。
ギャンギャンうるせーし。

数分後、騒ぎながら歩いていたら永遠が足を止めた。

「いちるちゃん…ここかな?"佐伯めがね"」


「はい!すみません…わざわざご親切に…ありがとうございました!」

いちるは永遠に頭を下げてお礼をいう。
律儀つーか、謝ってばっかりつーか…
俺が似合うフレーム選んでやる!と心の中で思っていたら、永遠の後ろにいた茶髪バカが余計なことを言い出した。

「ここまで来たんだから、フレーム選びまでしてやろーぜー。ついでに夕飯も食べに行こう!そうしよう!」

「……なんでテメェらと飯食いに行かなきゃなんねーんだよ…」

この茶髪犬はどこの場面で懐ついてきた?
ウゼーんだけど…空気よめよ…

「すみません…私、夕飯は準備してて…せっかくの…せっかくのお誘い本当に嬉しいんですが…」

いちる…また謝ってる。
なんか…ヤダ。
俺はいちるの頭を優しくなでる。

「…?姫野くん…?」

首を傾げて俺を見ているであろういちるに、
何を言えばいいか分からず…。

「そうだよね。急に誘って…気にしないで。また今度ゆっくり遊びに行こう…4人で?
じゃあフレーム選びまでは付き合わさせてもらうからね」

はい!と元気よく返事をしたいちるは本当に嬉しそうだった。

「いらっしゃいませー…あっ!織田さん。その後調子はどうですか?
今日はメンテナンスに?」

若い感じの男の店員はいちるを覚えていたらしく、店内に入った途端、話しかけてきた。
俺たちは店員に促されテーブルに移動する。

「あの…これなんですけど…直り…ますか?」

そう言ってカバンの中から取り出した眼鏡は、
修復不可能な程に、レンズもフレームも原型をとどめていなかった。

眼鏡を見た全員が言葉を無くす。

「これ、誰かに壊されたんじゃ…」

茶髪バカがまた余計なことを…

「あ…いえ…違うんです!結果的に私が悪かったんです!仕方なくて…」

永遠が横で溜め息をつく。

「これはもう直せませんので、新しい眼鏡の購入をおすすめします…。
視力は変わってないと思いますが、簡単な検査をさせてください。
こちらへ」

いちるが店員と奥に消えていった。
残されたヤロー三人。
重たい空気…。

「C組にいじめられてる子がいるって噂、いちるちゃんの事だったのか…」

「まぁ、あの顔隠した前髪はちょっとな…」

茶髪バカの発言を聞いた永遠がすかさず頭をはたく。

「いってー!!ほんとのことじゃねーか!
…でも俺は嫌いじゃない…けど」

俺たちのこと、変な目で見なかったし…。
冬吾はぼそりと呟いた。
その事が嬉しかったようだ。
だから懐いたのか…

「あの眼鏡は、いちるが最近俺に付きまとってるって変な噂を信じてる奴らから壊されたんだよ…」

「いちるちゃんはそんなの気にしてないと思うけど…
今後もこんな事があったら大変だし…あ。」

永遠は店内をぐるりと見渡して、何を見つけたのか…これだ!
とニヤリと微笑んだ。





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