にじりと汗が浮かぶこの夕暮れに、つばめがひゅんひゅんと忙しなく飛んでいる。 その下では一世一代の告白をした天音。 それを断るいちる。 冷静沈着な冬吾。 唖然としている永遠。
それぞれの時が止まったように静かな帰り道。
一番最初に動いたのは永遠だった。 いちるの真っ白な手を握りあまり大きな声ではないが、 真剣に想いが届くようにしっかりとした口調で言った。
「いちるちゃん。釣り合うとか合わないとか考えてたら、 本当に大切なもの…なくしちゃうよ? 君には後悔してほしくない。 そばにいたいって言ってくれる人の気持ち… ちゃんと受け止めて信じてあげて。
冬吾行くよ」
言いたいことを言って永遠は冬吾と一緒に帰って行った。 ここに残っているのは、いちるをじっと無言で見つめる天音と、 何かを心の中で必死に掴もうとしているいちる。
「…俺は…いちるを誰にも渡したくない」
独占欲剥き出しでも本心を隠さない真っ直ぐな天音に、 いちるの小さな小さな声は、 夕方の喧騒に描き消されることなく大切な相手へと届いた。
「恋人…の作法とかは…よく分からないんですが… 私は…姫野くんが大好き…んわっ!!」
最後の言葉を言うが早いか、 天音はいちるを力いっぱい抱き締めていた。
「…ぜってー離さねーから」
天音の腕の力に身を任せ胸に顔を埋めたいちるは苦笑いで応え、
「…そばにいさせてくださいね」
照れながら幸せそうに笑った。
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