体が疲れているせいか、
とても長く感じていた授業終了のチャイムが鳴り、
やっとお昼休みになりました。

姫野くんのおかげでいじめはなくなりましたがクラスに友達なんていない私は、相変わらずいつも図書館でお昼を過ごしています。
ご飯は食べない日がほとんどで、
チャイムと同時にすぐに図書館へ向かうのが習慣になっています。

立ち上がる際に、よいしょっと小声がもれてしまい恥ずかしくなり少しその場で硬直していたら、
クラスの中がざわっと騒がしくなりました。

そんな騒ぎは関係ないことなので後ろの扉から出て行こうと歩き出すと、
いきなり肩を掴まれて誰が後ろにいるのかさえ確認せず、
私は反射的にその手から逃げました。

前だけを必死に見ながら走り、ふと思い出す。
いじめられていた時、私が机にいないと教科書などを破かれたりしてしまうので荷物全部を鞄にいれて図書館に持って行ってた。
今はそんな事なくなったから安心して鞄を置いてきたけれど…

鞄…捨てられてたらどうしよう…

あぁ!せっかくここまで来たのに…
でも自分のことより鞄と教科書が大事なので引き返えすことにします…。

できるだけ急いで廊下の角を曲がった所で、いきなり現れた男子生徒にまたビックリしていたら、

「あっ!いちるさん!なんで逃げるんすか!」

あの朝のアッシュグレーくんと、

「おまーが後ろから肩つかむからだーろ!」

レッドブラウンくんがいました。

ぎょっとした私はなぜあの時、確認しなかったのか後悔しました…。
怪我してるのに手を振り払ってしまいさらには追いかけさせてしまった…。

「あ…あの…すみません…さっきはビックリしてして逃げてしまって…
私に用事ですか?」

「いちるさんにお礼がしたくて昼飯持って来てたんで!一緒に食べてもらいたくて!」

アッシュグレーくんがズイッと手に持っていた大きな紙袋を差し出した。
何だか微かにいいにおいが…。

「あの…いや…でも…お礼される理由もないですし…」

しどろもどろの私にレッドブラウンくんが、

「俺たち一生懸命作ったんすよ!食べてくださいよ!あまねさんの分もあるんで」

「いや…あの…あの…」

なぜお礼をされるのかも、なぜお昼をわざわざ手作りしてくれたのかも、なぜ一緒に食べるのかも分からない私は…。

「はい…頂きます…」

二人の剣幕に負けてしまった…。
どうしよう…。
このまま体育館裏とかトイレに連れて行かれたら…
もう…痛いのは嫌だな…。

先頭を歩くレッドブラウンくんの後ろにしょぼしょぼとついて歩く私。
その後ろからアッシュグレーくん。

「あの…怪我なさってるし…紙袋、私が持ちますよ?
こう見えても意外と力…持ちですから…」

振り返りアッシュグレーくんに提案するも、
滅相もない!と一刀両断され、
また私はしょぼしょぼとついていく。

「……あの…どこに行くんですか?」

心細くてしょうがない…。
場所だけでも聞いておきたくて前の彼に声をかける。
シャツの手首のボタンははずされ、裾はベストから出ている。ネクタイも緩めてあって、
しめつけない着こなしというのかな…。
彼は振り返り笑いながら、

「中庭のベンチっす」

この前、眼鏡を壊された時は気づかなかったけれど、左目下の泣きボクロと少し垂れた瞳が印象的。

「あ、いちるちゃん。今からお昼?」

前方から掛けられた馴染みの声に私は嬉しさが込み上げて来て、彼の…永遠くんの元へと一目散に走った。

「いちるちゃん怯えてんじゃん。ちゃんと話したの?悠…」

永遠くんの背中に隠れた私は行動で気持ちを伝えることに成功した。
出来ればこのまま永遠くんと一緒に抜け出したい。

「俺、灯っすよ!永遠さん覚えてくださいよ!」

「ごめん、何か包帯まみれで分からなかったわ…九重くん」

「永遠さん分かっててやってるでしょ!俺は浪江 灯っす!」

後ろで本物のここのえ君が笑っている。
アッシュグレーが"ここのえ ゆう"君。
レッドブラウンが"なみえ あかり"君。
忘れないように頭の中にインプットしておかなくては。

「んで?この様子だと何も話してないみたいだね。じゃあ僕が簡潔に話そうかな。」

ざっくりと話し終えた永遠くんの内容はこうだった。

昨日屋上で倒れていた二人を助けた永遠くんと冬吾くんは立ち上がれそうにない二人を家まで送り届け、
ここのえ君となみえ君の両親がお礼にと経営するレストランで食事を頂いたそう。
なぜ私にお礼をするのかというと、壁に叩きつけ眼鏡を壊し暴言をはいたにも関わらずに、昨日ボロボロの二人を姫野くんから庇ったからだという。

「もとはといえば…全部私が悪いんですよ…だから気にしないでください」

私の存在がみんなを振り回して迷惑をかけているのではないか…。
自意識過剰かもしれないけれど…やはりそう思ってしまう…。

「何言ってんすか!俺たちが悪いんですよ!いちるさんはこれっぽっちも悪くねーです!」

「なみえ君…」

すると永遠くんのため息がその場の空気をかえた。

「いちるちゃん。もういいじゃない。誰が悪いとか考えてたらお腹すいたでしょ?
みんなでご飯にしようよ。
俺はパンあるから…悠、天音はもう呼んだの?」

永遠くんは不思議な人だ…。
まぁるく私や周り全体を包んでくれる。

「多分屋上にいると思います!今から俺呼んできます!」

私はぎょっとした。
怪我してる人を屋上まで行かせられない…。
私が行きますよと言おうとすると永遠くんが携帯電話をポケットから取り出した。

「いーよいーよ。メールするから。行き先は?…中庭なっと。」

行き先をなみえ君から聞き、馴れた手つきで文章を打ち込んでいく。

数分後、すごい形相で中庭のベンチに走ってきた姫野くんにビックリ…いえ二人は怯えてました。
永遠くんは一体どんなメールを送ったのでしょうか…。

そして後ろをついてきた蒼生くんも合流して、
とても賑やかで楽しいお昼を向かえました。


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