いちるを好きなことで彼女に迷惑をかけているのは…俺だったんだ。

もう一生浮上出来ねぇんじゃないかと思うほど沈んだ気分のまま、いちるの家の近くの公園に重い両足を向ける。
薄暗くなった公園は、園内の電灯がチカチカとそこかしこで付き始めていた。
ここの公園はやたらと外灯が多い…。
そんな事を考えながらぼんやりしていると、
滑り台の方から子供の声が聞こえてくる。
こんな時間にまだ遊んでんのか…?

ってまだ18時前か…。

「あー!あまねー!!」

聞き覚えのある俺を呼ぶ声。
確かこれは…

凄い勢いでドーンっと俺に体当たりしてきた小さな体を受け止める。
コイツは俺が絶対に受け止めると分かってんだろうな…その自信なんだか羨ましいな…
見下ろす俺と、見上げる顔がかち合った。

この前遊んだ翼だ。後ろから妹の…歌凛がトコトコと走ってきた。

「おめーら!こんな時間に遊んでたら親が心配すんだろーが!」

何説教してんだよ。
こんな子供…関係ねーだろ?俺子供嫌いだろ?

クイっと右手を引っぱられ、そちらに目をやれば体温の高そうな歌凛の小さな手のひらが俺の手を無言で一生懸命に掴んでいた。

屈めっていうことかと思い素直にその場にしゃがみ込んだ。

「たいおーさん、お手てけがしてる」

そう言って俺の手を離し自分の肩からさげていた小さな赤いバックから、
アニメのキャラクターの絆創膏を取りだし、つたない動きでそれを俺の甲に貼っていく。
さっき殴った時に怪我したか…全然気づかなかった…でも…いちるなら気付いてくれてたかな…

「………おい、別に痛くねぇーんだよ。余計なことすんじゃねーよ」

「いたいのいたいの、とんでいけー。
たいおーさんは、いちるちゃんの好きな人だから、ダメなの」

いちるちゃんの好きな人…。
だったら良かったんだけどな…
俺…情けねー男だな…。

「歌凛、たいおーさんじゃなくて、あまね!
でもあまね、なんでケガしたの?」

翼に怪我の理由を聞かれ何も言えない俺は、本当にダメなヤローだ。

「つばちゃん!たいおーさんは、いちるちゃんをまもったんだよ!」

真剣になりすぎて翼に怒りだした歌凛。
いちるちゃんを守ったか…。
俺の方が守られてたんじゃないだろか…?

「いちるは怪我してねーから心配すんなよ。
にしても何で俺は、たいおーさん?」

「いちるおねーちゃんが、あまねのこと太陽みたいで温かいって言ってたからだよ」

怒り出した歌凛の手を握り翼が教えてくれた。

太陽…たいよう…たいおう…たいおー…か。

「ママー!!」

歌凛が翼の手を離し、公園の入り口から来た母親に、いち早く気づき走り出した。
そしてそのまま母親と手を繋ぎこちらへ歩いてくる。

「んだよ…親いるのかよ…」

呟いた俺に買い物袋を持っている母親が笑いながら、

「この子達、走るのが早くって早くって…。
天音くん、今日はいちるちゃんは一緒じゃないの?」

痛いところ突いてくるなぁ。
でも誰かに聞いてもらいたかったのか…俺は男を殴ったこと、いちるがそいつらを庇ったこと、俺の足を噛んだこと、今日あった事情全部を話した。

「いちるちゃん、必死だったんでしょうね…
天音くんが仕返ししてるのを見て。その子よりも…天音くんが心配だったんじゃないかしら」

なんであいつが心配するんだよ?
俺が2対1でも負ける訳なんてあるわけねーのに。

「俺は…いちるのためにやったんだ…」

「いちるちゃんは多分仕返ししようなんて考えてなかったんでしょうね。
それにいちるちゃんは詳しいいきさつを知ってたのかな…?
二人とも今は落ち着いてるんだから会って今日のことをゆっくり話した方がいいと思うわよ」

話し合い…いちるの気持ちと俺の気持ちをか…。
いちるに怖がられたままで、そばにいれなくなるのなんて絶対に嫌だからな…。

いちるに会いに行こう

「あまねは、いちるおねーちゃん大好きだもんな!!」

あははと笑う翼に不覚にも顔が熱くなっていくのが分かる。
クソガキめ…。

翼たちと分かれた後、俺は急ぐ心とは裏腹に足どりは遅かった。
どんな顔で会おうとか、最初になんて言えばいいのかとか。
そんな事をひたすらに考えていた。

俺の右手には、さっき翼の母親からもらったいちるが好きだというメロンパンを入れたビニール袋。
そして歌凛からもらった絆創膏がお守りのように、
俺を守ってくれているような気がした。





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