そうだった…俺はいちるの眼鏡を壊した奴らに弁償させ、いちるを傷つけたことを後悔させるなければいけなかったんだ。 D組って言ってたな。 にしてもよぉ…あまね信者ってなんだよ。マジで気色悪ィ…。
奴らのクラスに乗り込んだものの姿が見当たらず、近くにいた男に話し掛ける。
「おい…アッシュグレーの髪はどこに行ってる?」
掃除中のガヤガヤとした騒がしさが一瞬で静になる。
「……浪江くん達は…確か視聴覚室の当番です」
クソっ!視聴覚室は三階…。 なんで教室にいねーんだ…。 早くしねーとHRが終わって、いちるを迎えに行けなくなる。 俺は教室を後にまた走り出した。
ガラリと扉を開ける、そこには見覚えのある二人の姿…。 見つけた。
「あっ!天音さん!どうしたんですか?!」
アッシュグレーが近寄って来た。
「お前…か?いちるの眼鏡を壊した奴と、いちるをど突いた奴は…」
思っていたより自分の声が低くて、怒りのボルテージが上がっていくのがわかる。
「いや…俺が突き飛ばして、横のコイツが眼鏡を壊しました。 でも天音さん!あの眼鏡女に弱味でも握られてるんですか?! 天音さんが手を出せないなら俺たちが…」
うるせー…ちょっと黙ってろ…。 俺はアッシュグレーを殴りつける。 嫌な音がしたが気にしない。
「何するんすかっ!!俺たちは天音さんを心配して…あんなキモ女に付きまとわれて迷惑してるんでしょ!」
床に倒れたアッシュグレーのそばにレッドブラウンが駆け寄る。
「心配しろなんて…俺がお前らに頼んだか…?オラぁ…言ってみろよ…いつ頼んだ?」
「そっそれは…」
奴は目を泳がせながら口ごもる。
「お前らがいちるに触る資格はねぇーんだよ!!」
俺はレッドブラウンを蹴りあげて、髪を掴んで顔を無理矢理上げる。
「おい…そいつ連れて屋上に来い…早くしねーと…後悔するぞ…」
俺はニヤリと笑ってそいつの髪から手を離す。
「蒼生…?今すぐ屋上にいちるを連れてこい…あぁ?そいつらなら今ボコってる所。 ……は?止めろ? いちるの為に仕返ししてんだよ… 泣きながら土下座させて……」
蒼生にいちるを連れて来させる為に電話したが、 蒼生は電話口で止めろと言った。 んでだよ。 いちるがあんな仕打ちを受けたんだ。 止められるかよ。
俺はこの時はまだ分かっていなかった。 この行為こそが、いちるの眼鏡を壊した奴らと同じだったってことが。
それでまたいちるを傷つけてしまうということも。
いちるが屋上にやって来たが、その顔は焦りと恐怖。 これ…いちるの為にやったんだよ…。
近くにあった男の頭を踏みつけていたら、いちるが俺の足にしがみついた。 なんだよ…なんで止めるんだよ…。 苛々した俺は踏みつけた足に力を込めていく。
「…っ!」
いちるが俺の足に噛みついた。 本気で噛みやがった… 傷みと不可解ないちるの行動に俺は不安になってきた。 俺は悪いことなんてやってねぇ…。 悪いのはコイツらで…。
いちるの長い前髪が風でなびいた。
なんでいちるは…哀しそうな目で俺を見るんだ…? その目…やめてくれ。 そんな目で俺を見ないで。
「なんで…いちるは!!」
恐くなった俺は逃げた。 いちるから…自分から…全てから。
いちるに嫌われてしまった…。 どうしようもない絶望感で頭は真っ白… 目の前は真っ暗な闇の中。
俺は日の傾いた学校を飛だした。
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