姫野くんの行く場所が分からない私はとりあえず、最初に彼に出会った繁華街の路地裏に向かった。

初めて彼に会った日は、クラスの人達から体育館裏にある倉庫に閉じ込められてしまい、警備員のおじさんが救出してくれた。
本当は見回りのルートに入っていなかったけど、何となく見に来てくれたらしく…奇跡かもしれない…と感動したのを思い出す。

それからは家に帰る気にもなれずにフラフラとあてもなく明るい方へ眩しい方へと、夏の暗闇に飛ぶ小虫のようにまばゆい繁華街へと無意識に足が惹き付けられた。

ネオンや照明で光る表通りの隙間の闇から怖そうな三人の若い人達が出てきて…。

その路地裏の暗闇が、私を呼んだ気がした。

そこでボロボロの姫野くんに出会ったわけで…

「…やっぱりいないかぁ…」

路地裏を見たけれどそこに姫野くんの姿はなかった。
次は公園に行ってみようと表通りの方に振り返ろうとした時…
肩を掴まれた。

「ねぇー何してんのー?ここら辺の裏通りは女の子一人じゃ危ないよ〜」

ビクっと体が震えた。姫野くんや永遠くん達以外に触られて恐くなる…。
でも早くすり抜けなきゃ…。

「私は大丈夫ですから!」

置かれた手を離すために肩をグイっとひねり、その人から距離を取る。
そして叫ばれた。

「うわぁ!ユーレイ!」

この長い前髪に…この暗がりでは確かに幽霊に見えるかもしれない。
怯んだ隙に逃げようとしたが、

「あーそぅだぁ!今さ、友達が人探ししててね、この近くの店に探し人が来ないか待ってなきゃいけなくなっちゃって!
良かったら君もボクと一緒に待ってよーよー!そーだそーだそうしよぉー」

脇をすり抜けようとした瞬間、饒舌な彼に腕を掴まれて連行される。
フワフワした柔らかそうな髪が薄暗い道で風に揺れる。
爽やかな印象の顔立ちにぴったりハマる華奢…細身な体型ながら、やはり男の子…力はとても強かった…。
急いでるんです!と言う私の言葉などまるで無視にどんどん先を進んでいく彼の口元からは昔耳にしたような気がする奇妙なメロディーが聞こえてくる。
恐いところに連れて行かれたら…嫌だ…嫌…
ど…どうしよう…

「着いたよーここでぇーす」

歩いてすぐの場所はカフェのような感じ…?そんなことを思っている間にも彼は私を引っ張り店の中へ。

「アケルさーん!来たぁー?」

店内は薄暗くカウンター。その後ろにはたくさんのお酒の瓶が並び、淡く当てられたライトに反射してキラキラと宝石みたいに綺麗。
一生こんなお洒落な場所なんかに縁もないと思っていた私はパニックに陥った…。

りょ…両足が震えてきます…

「あぁ、まだ来てねぇーぞ…って真純!その子は…なんだ?!ユーレイ?」

店長さんらしき男の人が真純と呼んだ、私の隣の人に驚いた声色で話しかける。

こんな幽霊のような女をなぜ?と。
確かに…私も聞きたいです…。

「裏で見付けたの。ボクのセンサーにビビッー!って来たから連れてきた」

「どこのセンサーかは敢えて聞かねぇよ…にしてもお前…本当に女好きだな…」

呆れた顔で吐き捨てたアケルさんと呼ばれる人は、私を見つめ、

「まぁコイツに捕まったのが運のつきだ。座りなよ。ジュースくらい奢ってやるよ」

そんな時間ありません…せっかくの店長さんの気遣いを突っぱねることが出来ない私は

「…ありがとうございます…で…でもそれを頂いたら帰りますから…!」

と…真純さんに引っ張られカウンターの席についてしまった…。

「おいよ。その制服は東山か?俺そこの卒業生」

アケルさんは私の目の前に、赤や青、黄色にオレンジの色とりどりの氷が入ったサイダーを出してくれた。
綺麗…!と思わず叫びそうになって我に返り踏みとどまった。

店内には他のお客さんはおらず、まだ営業時間前なのか…とキョロキョロ見回していたら、
アケルさんと真純さんが探し人の話をし始めたので、私はサイダーをちびちび飲みながらそれを聞くことにした。

「蒼ちゃんから電話あってビックリしたけど、どっかでまた怪我してないといいんだけどねぇ。
それかさぁ〜こーんなに皆心配してるのに実は女の子とヤラシー事してるかもしれない…と思うと!居ても立ってもいられない!!」

声を荒らげ興奮した真純さんはいきなり立ち上がり、私の手を握った…。
こ…この人恐い…!
怯える私に気づいたのかアケルさんが銀のおぼんで真純さんの頭を叩いた。

「ぎゃぁ!ヒド過ぎる!痛すぎる!」

頭を押さえておとなしく座った真純さん。

「お前が盛ってどーすんだよ。もうアイツはお前と違ってアレやコレやむやみやたらに突っ込まねぇーよ。
にしても恋が人を変えるとは…恐ろしいねぇ」

恐い恐いと笑いながら言うアケルさんは、とても優しそうなお兄さんという雰囲気。
二人の探し人はとても女の人が好きなよう。
あれ?今日確か蒼生くんからも、そんな話をサラリと聞いたような気がする…

「にしても…君、君は何で裏にいたの?あそこらへんは危なくて有名なのに」

「…私も人を探してるんです…今日とても傷つけてしまって…でもどこにいるのか…
全然わからなくて…それで初めて自分が彼の事…
何も知ろうとしなかったって気付いて…」

言葉にすると不安や後悔が溢れ出して来て、
ごめんなさい…ごめんなさいが止まらない…

「詳しい事情は知らねーけど。その気持ちがあれば仲直りできるさ。
見つけたらちゃんと言葉にして伝えてやりゃーいい」

頭を撫でられる、その大きな手が姫野くんと重なった…。

会いたいよ…姫野くん…

「なーんだ!彼氏持ちかよぉ!最初に言ってよねぇ!」

真純くんが文句を言ってくる…ど…どうしよう。

「無理矢理連れてくるお前が悪ぃんだろーが。彼女に迷惑かけて…お前探しに行けよ」

「えー!彼女の彼氏どこにいるかも分からないのにー?探してる間に発情しちゃったらどうすればイイのよー」

真純さんは欲望に忠実な人ということが分かった。近寄らないように気を付けよう…。

きぃーっと入り口の開く音がした。
もう開店時間になってしまったのかな…そろそろ私も出ようかな…

「あれ…?いちるちゃん何でここにいるの?」

そこにいたのは土曜に会った光馬くんだった。

「「君がいちるー?!」」

アケルさんと真純さんの大きな声が重なります、私の鼓膜が悲鳴をあげた。

「……はい、織田いちるです…」


落ち着いた二人から話を聞いています。
ここスケアは姫野くん達がよく集まる場所で、
深川真純くんはそのお友達で光馬くんと同じ学校の同じクラス。
アケルさんはやっぱり見かけ通り店長さんだった。

そして皆の探し人は姫野くんだった。

「いやーさっき言ってた女関係の話は忘れてくれ!まさか君がいちるちゃんだったとは…」

苦笑いのアケルさんに、真純くんが言った。

「本当のことだから仕方ないよ!天音はヤリチンだもん!」

「真純…いい加減にしろよ。拗ねて八つ当たりしてんじゃねーよ」

私の隣に座った光馬くんが少し怒ってる。
むぅ!と頬を膨らませた真純くんは、

「だって…天音!いちるいちるって!俺だけ置いてぼりにしてさ!天音はズルい!大切なの見つけて!」

あぁ…彼は姫野くんが私のことを見るのが寂しいんだ。

「真純子供じゃねんだぞ!もうやめと…」

アケルさんが真純くんを止めようとした時、私は立ち上がり真純くんの手を握った。

「私が近くにいることで傷つく人が…悲しむ人がいることは知ってます…
彼のことさえも今日は傷つけてしまいました…
私自身…自分のたち位置も…よく分かってるつもりです。
でも…それでも彼が私を許してくれるなら…私は…何と言われようと
私の存在全てで彼を守ります!
だから真純さん…許してください…」

……太陽のような彼を守りたい。

私はお店を飛び出して公園へと走った。




TOP
×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -