屋上を後にした私は姫野くんの教室へ。 そこはHRも終わり放課後特有の緩んだ空気が、そこかしこいっぱいに広がっていた。
「…あの!ひ、姫野くんは…?それか蒼生くんは…?」
ドア横の机に集まっていた女子の集団に、勇気を出して訪ねてみる。
「さぁ〜?二人とも掃除の時から戻ってないよ〜」
普通に答えてもらえた…!いつもなら罵声浴びせられるとか無視されるだけなのに…。
「蒼生くんがさぁ〜あんた苛めたら天音くんが黙ってないから〜って言い回ってて〜 それ言われたらねぇ〜」
化粧の濃い女の子は付け睫を直しながら、語尾をのばしつつ教えてくれる。
蒼生くんが…。 私なんかのために…。 これは姫野くんを絶対に見つけなきゃ…。
私はお礼を言って教室を出て靴箱へ向かった。 怪我をしている屋上の二人が心配だったのだけれど、先生に言ったら姫野くんが退学になってしまうかもしれない…。 ごめんなさい…やっぱり私には屋上の二人より姫野くんが大事なんです…。 蒼生くんがいたら二人を頼もうと思っていたけど、見つからないよ…。 こんな時のために携帯電話は必要なのだなと痛感しました…。
靴箱に着いたけれど姫野くんの靴はもうそこにはなかった…。
「あ、いちるちゃん。今帰り?」
出口の方を振り向くと永遠くんと冬吾くんがいた。 あぁ!神様! ありがとうございます!
「あ…あの!永遠くん!冬吾くん!頼みごとがあるのですが…!!」
事情を説明した後、そんなことならお安い御用と、 二人は頼もしい発言を残し屋上へ向かってくれた。冬吾くんは制服が違うから先生に見つかりませんように!と祈る。
学校を後にし目的無く走りながら気づいた…。
私は…姫野くんの家もよく行く場所も知らなかった…。
いや、違う…知らないんじゃなくて、聞かなかった。 私は自分から彼のことを知ろうとしなかったんだ… いまさらこの事を後悔するなんて。
ごめんなさい…姫野くん… 私のこと守ってくれたのに… ご飯美味しいって笑ってくれたのに… 手もたくさん繋いでいてくれたのに…
でも絶対に探しだそう。 人に触られるのが苦手な彼の足に噛みついてしまったことを謝ろう。
そして私は勇気を出して彼を思いっきり殴ろうと心に固く誓った。
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