「いちるちゃん!!緊急事態!!すぐついてきて!」

掃除時間が終わり帰りのHRが始まる前に、蒼生くんが慌てて私の教室に入って来て。
そのまま連れ去られてまいました。

「……あのっ!どうしたんですか?」

手を掴まれて強い力で引っ張られて行く私は、あまりのスピードに転びそう…。
でも蒼生くんのただならぬ雰囲気に段々心細くなってくる。

「あまねがね…!」

姫野くんが!!?
焦る私は、蒼生くんの次の言葉を待っていた。


「髪の色変えたじゃない?あれってどー思う?」

「………は…い?」

あれだけ迫真に迫ってたのに髪の色?
なのに蒼生くんは足を止めてくれなくて、
話の内容はふざけているのに、行動はそれとは真逆で…。

嫌だ…嫌な予感がする…姫野くん…!

無言な私に蒼生くんがまた声を掛ける。

「あまねってね…見かけはアレだし下もユルいし、人に触られたら女の子でも殴っちゃう男なんだけどさー。
いちるちゃんは、あまねを優しいって…太陽みたいだねって言ってくれた。
それが本当に嬉しかったみたいでさー。
いちるちゃんがあまねを変えた…。
だから彼を好きになってあげてね!」

階段をかけあがり蒼生くんが扉を開けたその先は、太陽が眩しい屋上。
青い空はほんの少しだけ傾き始めていた。

「じゃあ…よろしく」

そう言って蒼生くんは私の手を勢いよく引っ張り前に突きだして、手を離した。
バランスを崩しながら勢いに負けないように体勢を立て直す。

転ばすに済んだと思って前を見た私の目に入った光景…。

「……姫野くん…?」

目の前にいたのは最初に会った時の鋭い目付きで、男の子の頭を足で踏みつけにしている姫野くんの姿だった。
その横にももう立てないであろう、コンクリートに突っ伏した男の子が一人…。

「……ダメですよ!ダメ…!足を止めてどけてください!」

私は姫野くんの足にしがみついた。
そこから見上げた姫野くんの冷たい目。
どうしてしまったのだろう…。

私は姫野くんが殴られて傷付いている場面は見たことがあったけれど、
ヒトを傷つけるところを見たことがなかった。
今の姫野くんはいつも一緒にいてくれる彼とは、その雰囲気が違う。

足をのける気がない姫野くんはどんどん足に力を籠めていく…。

「うぐっ…!」

足蹴にされている彼が苦しそうな声を絞り出す。

ダメダメダメ…!

私は無我夢中で姫野くんの足に噛みついた。

「何すんだ…よ!」

一瞬離れた足に蹴られるっ!
とっさに足蹴されていた男の子に覆い被さった。
でも…待っていた衝撃はこない…。
私は固く瞑っていた目を開けて姫野くんを見る…。

「……んだよ…いちるは…いちるはっ!!」

哀しそうに叫んだ彼は屋上を出ていった。

残されたのは私と、意識の朦朧な二人の男の子…。

ここにいたはずの姫野くんの体温が消えた…。
まるで最初から何もなかったかのように。
一瞬にしてすべてが真っ黒く冷たくなった。

それはとても…とても…

私は彼を追いかけた。

追いかけてどうなる?
私なんかとは到底釣り合わない存在。
本当は私なんかとはかかわってはいけない…
太陽のような人…

そばにいさせてなんて…言えるはずもないのに…

でも彼は私を助けてくれた。

この想いを君に伝えたい。








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