11時30分頃、蒼生と光馬はまた公園に戻ってきた。
さすがに子供が大嫌いな天音の事だからもういないだろうと思っていたが…。
まだいた!!
二人は顔を見合わせて、改めていちるの凄さを思い知る。

ぼやっと公園の外から天音達を見ていたが、前方から歩いてくる二人組の男に光馬の目が惹き付けられた。
そして隣の蒼生にコソリと話し掛ける。

「あ…蒼生。あれが昨日、天音が聞いてきた白木冬吾だよ。隣はきっと噂の相方だろうね。
…相方は蒼生の学校でしょ?」

蒼生は、あーあれが喧嘩強くて有名な二人組かぁ。噂と違って可愛い顔してんなー。って物珍しそうに眺めていたら白木冬吾と目が合った。

「何ニヤニヤした顔でこっち見てんだよ!」

走って来た冬吾にいきなり喧嘩を吹っ掛けられる。なんと血気盛んだろうか…。

「いやー。ニヤニヤって!僕もともとこんな顔だし…因縁つけられても…困るんですけどー!」

ここでモメられては公園の中にいるあまねに、デートを偵察に来たことがバレてしまう。
そちらの方が死活問題だと必死にユルくやり過ごそうとしたが、蒼生のその態度が更に冬吾の怒りをヒートアップさせてしまう。

「てめぇ!ふざけてんのか!」

「ふざけてるのはお前。うるさい、冬吾」

後ろから来た黒髪の男が冬吾に脳天チョップをかます。
かなり痛かったらしく両手で頭を押さえつけ「にいやぁーー」とうずくまった。

「ごめんね、コイツが迷惑かけて」

黒髪は謝りながら蒼生を見て、

「君、東山高?何だか見かけたことがある」

「そうだよー!俺、永崎蒼生でーす!でもごめん。俺、君知らないなぁ」

「いや…いいんだ。俺は青柳永遠…」

永遠が名前を名乗ってすぐ、後ろから来た30代前半の女の人が、

「すみません、そこ通してください」

と声をかけてきたので皆が道を開ける。
男4人が道幅いっぱいにいたら確かに邪魔だ。

ありがとう。と言ってふと通りすぎざまに横の公園を見たその人は、

「い…いちるちゃんが不良に絡まれてるわ!!あぁぁ翼!歌凛!!」

青ざめていく女の人に永遠がすかさず声をかけた。

「あの金髪はいちるちゃんの友達ですよ」

「……あなたたち、いちるちゃんのお知り合いの方…?」

恐るおそるといった感じで聞いてくる。
確かに永遠以外は、冬吾と蒼生は茶髪。光馬も案外奇抜な髪型だし。
警戒する気持ちは良く分かる。

「ええ。友達です。」

「そう…友達がこんなに沢山出来たのね…良かった」

この女の人は公園で遊んでいる子供の母親だろう。いちるの友達と名乗ると本当に嬉しそうだった。

「うちの子供がすごく心配しててね…」

「いちるちゃんと仲が良いんですか?」

「翼…息子のね。命の恩人なの…彼女。」

「その話し詳しく聞かせてくれませかー?」

興味津々の蒼生が話に割り込んできて、光馬も是非!と目を輝やかせている。

そして女の人は、ちょっと長くなるけどいい?と言いながらも話しを聞かせてくれた。

「今年の4月の中旬からこの辺りで変質者が出るって騒ぎになっててね、気を付けるようにって学校から注意があったの。
ちょうどその頃から公園で、前髪で目を隠した不気味な女の子がいるって噂になってて…
夕方見かけた彼女に声をかけたの。
そしたら…」

『最近…ここに変な人が出るらしくて…遅くまで一人で遊んでる子がいないか…
最後の子が帰るまで…見張ってるんです…
子供に何かあったら大変ですし…』

立派な女の子だと思ったけど、この子も狙われるかもしれないから早く家に帰りなさいって言ってね。
次の日警察の人に見回り強化してもらうように言って、自治体でも交代で見回るようにしたの。
そしたら数日後…うちの子供が変質者の男に連れ去られかけて…。
その日も公園を見張りに来たいちるちゃんが、翼を助けようと体を張って守ってくれたんだけど…。
変質者の男がナイフを持っていてね…。
いちるちゃん、腕に怪我しちゃって…。
警察の人が偶然見つけて、男は即逮捕。
いちるちゃんと翼は事情聴取で警察に。
私も慌てて駆けつけて。
警察官もいちるちゃんを誉めてたんだけど、
やっぱりとっさの事とはいえ、女の子だし怪我も軽くで済んだものの…一歩間違えれば命を落としてたかもしれなくて。
ちょっと気を付けるように…みたいな事を言われて…。
そしたらいちるちゃん…


『…希薄な私は、太陽みたいに大切で大事な子供を守る為に…存在してるんです…
それが出来ないのなら…私には生きてる価値がなくなってしまいます…』

警察官がそれを聞いて、
「君は自分をもっと好きになりなさい」って諭したの。
いちるちゃん、ますます縮こまっちゃって…見てるこっちが泣きそうになっていたら…。

『………役立たずな私が…この命で誰かを救えるなら本望です!!』

いちるちゃん、突然叫んで警察署を飛だして…それっきり。
翼がちゃんとお礼を言いたいって、いちるちゃんを探してね。
そこから仲良くなったの。

ごめんなさいね…長くなってしまって…。



「俺、その事件ニュースで見たよ…」

光馬が呟き、永遠は公園のいちるを見ながら、

「彼女…強いんだな」

と言った。


でも皆思っていた…けれどきっと彼女は儚い。何かあればすぐに崩れてしまうのではないだろうか…と。

「いちるー!!!」

そんな重たい空気をもろともせず冬吾は公園で遊んでいる、いちる達の中に走って行った。

「本当…冬吾は馬鹿で助かるよ…」

その言葉と共に公園へ歩きだした永遠に自然とついて行く蒼生と光馬。

「いちるちゃんの事、超気になる!」

光馬がファンになりそー!っとソワソワしていた。

「そんな事言ってっと、あまねに殺されるよー」


その後、蒼生たちの存在に気付いた天音は般若ばりの恐ろしい形相で二人のケータイを没収し、
朝撮った写真とムービーを削除した。





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