手のひら


新しい主人かと思った海賊の朗朗に、いともあっさり捨てらた。
初めからここに連れてくるのが目的だったのかもしれない。

捨てられて拾われての繰り返しには慣れてるから、特に気にはしない、けど。
問題は目の前の人物ノバリだった。

私が欲しいと言い所有権を獲得したのに、
未だにノバリは私を見つめ、ニコニコと音が聞こえてきそうな程の笑顔で微動だにせず、
時を止めている。
…どうすればいいんだろう。


「…あの。私、何をしたらいいですか?」

とりあえず聞いてみた。


「ねぇ。名前は?」

あぁ、そういえばという風に聞かれれば、


「私に名前はありません。
所有者である貴方が好きな呼び名を付けてください」


こちらを見たまま数十秒の沈黙。
やっと口を開いたかと思えば、


「…しょ?しょゆーしや?
…あの…君の言ってること、
よく分からないから、とりあえず皆の所に行こっか」


なんだ。
なんなんだよ、こいつ。
自分から欲しいって言っといて。
話が噛合わないしバカなのかな?
でもなんでだろ。
いつもは何も感じないようにしてるのに、
イライラしてる自分が不思議で仕方ない。


うつむき深い溜息をはいて視線だけ前におけば、
差し出されている白いきれいな手のひら。


「?手、繋いだことないの?
えっとね。君の右手を、ぼくの左手におけば…」


「あの!それは分かります!…だからなんで手を…?
奴隷の私なんかに…」

途中で彼の言葉を遮った。
なんだよ、もう分けわかんない。
色々身売りされて住む所も人もいつも違って、怖い思いばっかりさせられて、この酷くも長い一生に慣れていくハズだったのに!
だったのに!


繋ごうよ。
と差し出された手に動揺を隠せない私は、
いつの間にか俯いていた。


そして、
すぐに私の両頬に、あったかくて柔らかい手があたった。

顔をゆっくり上げさせられて合ったノバリの瞳は、とても優しかった。


「…君、何だかむずかしいね」

ノバリは顔を傾け少し困ったらしく、苦笑いをこぼした。
そんな顔も私にとっては、
心を安心させるに十分だった。




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