イヌとオオカミと白いユリ


ほら、まただ。
彼はお別れという儀式が大嫌いなんだと思う。
きっと自分の弱い部分…涙を流すところを見られるのが耐えられないのかもしれない。
俺には全てじゃないけど、
少しだけは理解ができる。

けどね、甘えてもいいんだよ。

博士が消える時が近づいてきたのを感じたのか、
IQは声を発することもせず庭を去って行った。
もちろんそれに気付いた俺も後をこっそりつけて行った。
前の時と違うのは、
森の木の陰からこっそり覗いたりはしないってこと。

「IQ〜。なんでレイニーデイズのゴースト化を見守ってあげないの〜?」

分かってて聞く俺はやっぱり意地悪かなぁ〜。
IQは立ち止まったがこちらを振り向く気配はない。
泣いてんのかな?そう思ってIQに近づいて一歩を踏み込んだ時、
IQの右腕が動きズボンのポケットから煙草を取りだし口に運び、今度はマッチを取り出し、
それに火をつけたのが分かった。
吸い込んだ煙をフーっと吐き出しながらIQが振り返えった。

「泣いてると思ったか?」

IQは俺を見ながら笑った。
その笑顔の破壊力は凄まじく俺をバラバラに打ち砕いた。
打ち砕だかれモノが何だったのかは、
君たちの想像にお任せしよう。
言葉にするのなら、
この長い付き合いの中で初めて見た表情。

「最期じゃないのは分かってる。
けど博士が消えてくのを見るのは、
やっぱり嫌なんだよ。」

IQは無表情のまま庭の方を眺めながら呟いた。

「お前こそ、博士の側にいてやれよ。
いつ消えるか、わかんないんだから。」

少し目を細めながら俺を見るIQ。
何を思い考えてるのかは、
俺の勘違いでなければ当たってるはずだ。

「俺が死んだらレイニーデイズに会えるし、
確実に俺は、IQより早く死んじゃうからね」

ははは、と笑う俺にIQは言った。

「そうだな、出来れば博士と一緒の時に…いや今すぐにでもいい。
速攻で消えてくれたらオレはこの上なく嬉しい」

「それを真顔で言うの、止めてもらえます?
傷つくんですけど〜
まぁ、でもIQ。
本当に照れ屋さんなんだから〜!」

IQは抱きつこうとした俺の頬を殴り、
怒りながらそのままアトリエに帰って行ってしまった。
残された俺はIQから殴られた頬を触りながら、
ひとしきりニヤニヤした後、
また庭へ戻ることにした。

その頃にはもうレイニーデイズの姿は…無かった。

俺の最愛の友人よ。
またそのうちさ、会いにいくから。

それまで…ほんの少しの間だけ、
さようなら。

レイニーデイズのおかげで俺は全てを取り戻せたよ。

心からの感謝を込めて。
この白いユリの花束を、君に。



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