ショコラと真珠の涙


博士は穏やかな表情を浮かべ、言った。

「ノバリ、IQ、ショコラ、ポルカにかけていた呪いを解きます」

ショコラは驚きと少し焦りも伺える表情で、

「なんでさ、解かなくていいじゃん。
オレたち誰も後悔なんてしてないし、
そんなの思ったこと一度もないよ」

「そうだよ!博士!このままでいいよ!」

ポルカは博士のベストを引っ張った。
それをIQはただ煙草をくわえながら見ている。

「ねぇ…博士がかけた呪いって…?
前に言ってたやつ?」

事情が分からないニッカは隣のビスケットに、
こっそりと聞いた。

「Jemmyに入る前に赤い線を見たでしょう?
あれです。
博士がノバリたちをJemmyから出れないように、
呪いをかけたんですよ。
勿論、それは皆が承諾してのことですから、
呪いというのは聞こえが悪いですよね」

ニッカはしゅんとしながら
博士達のやり取りを見るしかない。

「俺たちはJemmyから出ない。
博士を一人にしない。
いつも一緒にいたいから。
忘れたり…しないから。
だから呪いなんかじゃない、約束」

IQはニッカの頭を撫でながら言った。

「なに?博士はオレたちを切り離したいの?
そんなこと考えてたの?
ねぇ、いつから?
死んでから実体に戻ってるのも教えてくれなかったし!
もう消えるからって、
最期の約束まで消してくつもりっ……!」

初めて感情を昂らせ自分では止められなくなってしまったショコラの口を、
後ろから抱き抱えるように止めたのは、
朗朗だった。

「最期なんて言うな。
レイニーデイズがそんなこと思って言ってるなんて、
お前も分かってるだろ?
だからもう…泣くな」

朗朗はショコラの口から手を離した。
言葉の波を止めたショコラは、
ギュッと口を真一文字に堅く結び、
眉間にシワを寄せ、
止めようとしても溢れてくる涙を、
拭うことも忘れ博士を見据えていた。
大きな水色の瞳から、
どんどん零れてくる涙は大粒の真珠のように綺麗だった。

「この先もみんながJemmyから離れないとは、
分かっていますよ。
でもね、時間は永遠ではない。
そう考えた時、
あれをしたい。
これをしたい。
溢れ出る自由な思想の中に、
"Jemmy"の外に出なければいけないという選択肢が生まれるかもしれない。
……"出来ない"を作りたくないんです。
私は死が怖かった。
一人になるのが怖かった。
皆にすがりつきたかった。
忘れられたくなかった。
でももうあの時とは違います。
死んでしまってから長い年月で私も大分図太くなりましたから。
それはJemmyのみんなもきっと同じでしょう。
だから今、約束はもう必要ないんです」

博士はショコラの両頬を包み、
そして親指で零れ落ちる涙をゆっくりと拭っていく。
その優しい顔を真っ直ぐに見つめるショコラ。
まだ、嫌だという意思表示が伺えて博士は苦笑いした。

「繋ぎとめるモノはもう要らないんですよ。
私の思いはショコラ、
貴方に全部託してるんですから。
研究頑張ってくださいね。」

ショコラは頬に触れる博士の両手首を握って、
そのまま勢いよく博士の胸に飛び込んだ。

「バカバカバカバカバカバカ」

バカを連呼するショコラに、
困ったなと笑う博士に、
それを見ているポルカはもう泣いていなかった。

そこにIQの姿は…なかった。








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