ノバリの覚悟


「ぼく外でニッカたちが帰ってくるの待っておく!」

「ちょっと待てノバリ!」


ドクロの呼び止める声も聞こえないふりをしてぼくは一人、
急いで屋根の上へと登った。

だってあのままドクロと一緒にいたら気づかれてしまいそうだった。
わずかに震える指先と不安で揺れるぼくの瞳を。

どうしよう
どうしよう

ぼくにはドクロを殺すなんて出来ない。

さっきはとっさにウソをついてごまかした。

みんながあんなにもやさしい顔してるのに、
ドクロにも言い出せなかった。
絶対に言ったらいけないと思った。

生き返らなかったとか、
それよりもドクロの心臓にナイフをつきさす?
首をしめる?
手段はわからないけれど、
ぼくがドクロの鼓動をとめる…?

この手はそんなことをするためにあるんじゃない。

でもぼくがやらないといけない…
じゃないとみんなが悲しい思いをしてしまう。

どうしよう
どうしよう

こわいよ…
できないよ…
不安が体の中で暴れてる。


「よぉー。お月見かぃ?」

いきなり掛けられた声にビックリして屋根から落っこちそうになったぼくを、
つかみあげてくれた手は大きくてあったかい。
また落ちる前の体勢にもどって、
朗朗が隣に腰かけた。

「朗朗。こんばんは」

「なんで挨拶?さっきから会ってんじゃん」

暗くてあまり顔はわからないけれど、
声はいつもとは少しだけちがう気がした。

「だってね、話すのは今がはじめてでしょう?」

「律儀だねぇ。にしてノバリ」

「な…ぁに?」

今はなにもいわないで
聞かないで
答えられないよ
おねがい


「ノバリはドクロが殺せるの?」

心臓がドキドキして足まで震えてしまう。
聞かれたくなかったのに。
朗朗に言わなきゃ。
笑顔でちゃんとやれるよって。
じゃないと朗朗がドクロをこ…ころし…
ころして…

「分かったから…泣くな」

ぼくは弱い。
みんなの幸せのためって分かってるのに、
こんなにも震えて泣いて心と体は出来ないって叫んでる。

「涙止めとかないとドクロを殺す時にヘマする」

「いじわるな言いかた。でも朗朗だいすきだよ」

ぼくは泣きながら笑った。
朗朗はお見通しなんだ、ぼくはきっとやり遂げられるって。


「朗朗…おねがいがあるんだけどね」

「なぁーに?」

ぼくは月を見ながら言い、
朗朗は星を見ながら答える。
風は雲を流しそれは月も星をも隠した瞬間の暗闇。

「ドクロが死んだら、朗朗がぼくをころしてね」

運命を受け入れる覚悟とともにぼくは涙をとめた。

「あぁ、誰が邪魔しようとも確実に俺がノバリを…
ドクロの元へ連れていくよ」

ぼくが次の瞬きを終えたときには朗朗の姿は、
もうそこになかった。

…誰も悲しむことがないように。
がんばっているニッカのためにも、
ぼくは勇気をだすよ。

気づいたら体の震えはとまっていた。






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