笑顔
嵐は全てのしがらみを風でなぎ払っていき、
そこに残ったのは少しの虚無感と大きな希望だった。
絶望は望みへと変わり暗闇の中をひたすらにもがき苦しんでいた者へ、
未来への道を照らし出した。
「朗朗…やっと戻ってきましたね」
博士はショコラが家を出る前に、
夜々の目玉が入った巾着を渡されていた。
そしてそれを朗朗の手のひらにゆっくりと優しく置いた。
「あぁ…でも喜ぶのは夜々と戀々が生き返った時までとっておくよ」
泣きそうな顔して笑う朗朗の赤い瞳は底抜けに優しく、
嘘で完璧に塞いでいた表情の仮面は、
もう必要なくなっていた。
「IQ、良かったですね」
小声でビスケットが耳打ちしてきたので、
とっさに赤面し、
「は…?な…何が?そっ…そもそも俺には全く関係なっ!ないしさ!」
吃りまくっていた。
そんな可愛いIQを見て見ないふりをしている朗朗。
まだ全ては終わっていない。
今はIQの元へ尻尾を振っては帰れない。
安堵してはいけないと、彼は言い聞かせていた。
「オルガさん…初めまして…レっ!レイニーデイズと言います!
私ですね!死ぬ前からあなたの事を聞いていて、
是非お話してみたいと思っておりまして」
興奮しながら博士はオルガに駆け寄る。
「白旗の魔女はこの世界では有名だ。魔女のツラ汚しと」
部屋は静かになった。
博士はオルガの口からそれを言われたことが悲しかった。
無理をしてでも笑おうとした時…
「だが、噂とは全くもってあてにならん。
死んだ後も何かを成し遂げようとする気迫、頭が上がらん。
お前を蔑んでいた奴らは皆死に、
最後に残ったのは白旗の魔女だけ。
皮肉な話…いやこれが世の常かもしれんな」
そしてオルガは自分から握手を求めた。…が
「すっ!すみません…さっき土の中から出てきたばかりで、
もしかして汚れてると悪いので…
ちょっと待って下さい!」
博士はそう言うと自分の手袋を服でごしごしと拭く。
「服も汚れていたら綺麗にはならんぞ」
オルガの冷静な突っ込みに博士は大慌て。
「ほら使え」
オルガは自分のポケットから薄いピンク色のハンカチを差し出した。
「おおおおおおそれ多いです!!!」
「“お”が多い」
とぶっきらぼうに言うオルガだったが、
その顔はとても優しかった。
「ドクロ、みんなの顔がやさしくなったね」
「あぁ。ノバリ…オレがもし死んでも…後を追うなよ」
ドクロはそれが一番恐かった。
ノバリには生きていて欲しい。
もともと死ぬことのない体のノバリに、
運命をねじ曲げるようなことをしてほしくはないから。
ドクロの手をギュッと握りしめ、
「うん!ぼくは死なないよ!」
ノバリは笑顔で嘘を…ついた。
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