満月の狼


その頃朗朗は…。

大きな大きな満月に照され、
いやに明るい夜。
もうじき日付の変わる時間帯、
朗朗は彼が出てくるのを待っていた。



“博士は命日に実体になって現れる”

あの時ニッカの手からこぼれた錠剤を見て内心ビックリしたが、
最後の手札として使えるかもしれない…初めはそう思ってついついニヤケてしまった。
だがすぐにレイニーデイズの命日と、
オルガをJEMMYに呼んでからのドクロ殺害のタイミングが噛み合う確率は0に等しいだろうと結論付けた。
とか言ってるけど実は慌ただしく過ごす内に命日のことをすっかりと忘れていた。
思い出したのはショコラの研究室に戻った時だった。

墓の前に立ち待ち人を想う。
もしかしたら決意が揺らいでしまうかもしれない。
それがただ怖い。
俺様にだって怖いことくらいある。
どんな顔して俺を見て、
どんな言葉を掛けてくるのか…。

不安が身体中を占めてしまう直前、
墓から小さな小さな赤い花火がパンっ!と打ち上がった。
一瞬の光はすぐに消え火薬の匂いに煙がぼわりと立ち込める。
その中から出てきたのは…

俺のただ一人の友…レイニーデイズ。

こんなにも嬉しいのに素直に喜べなくて…。

「実体になるって本当だったんだな。
時間がない単刀直入に言う。
ドクロの呪いを解いてくれ」

ぶっきらぼうに言えば、
レイニーデイズは開口一番…
こう言った。

「死人は死人として在るべきです。」

そうだ。
そんなのは昔から分かってるんだ。
だけど納得なんて出来ないんだ。
心で叫ぶ、口から垂れ流すのだけは御免だ。

「耳の痛い話だな。俺さー、頼みごとって嫌いなんだよ。」

「知ってますよ。」

月明かりでレイニーデイズが優しく笑うのが分かる。

「ドクロから核だけを取り出しても、
あの二つの核は長い間の中でドクロの一部として機能しているでしょう…。
ドクロが死ななければ…JEMMYは核に反応しない可能性が高い。
そんなことをしてしまったらノバリが哀しみます。
ノバリにはもう二度と…
二度と辛い想いをさせたくない。」

レイニーデイズは正論を言っている。
彼はいつでも正しかった。
けれど…。
オルガとの契約が破れた今はレイニーデイズに頼るしかない…。

「ドクロは命の恩人です。
彼がいたから私はビスケットを造りノバリに会え…
皆に会えた。
でも朗朗…あなたは…私の唯一無二の…友人です…」

レイニーデイズの顔が歪む。

「俺は…俺は…どうしても!」

続きは言えなかった…。

「朗朗、ドクロは弟さんの瞳を持っていましたか?」

レイニーデイズが俯いた俺の肩に手を乗せた。
置かれた手の形が凄い熱を持ってるような錯覚に陥る。

「ずっとドクロを探ってたけど…持ってる気配すらない…
ヤツを殺しちゃったらさ、
どこにあるのか分からなくなる…って言いたいの?」

レイニーデイズは頷いた。
俺の叶えたい願いは…少し多すぎるのか?
うまくいかないことばっかり。


「朗朗、やはり過去と…ドクロと向き合って話すべきです。
私も一緒に行きますから…」

俺の絶望で満たされた重い手を取り庭へ向かうと言う。

「死人は死人として在るべき…か…」

俺はそう呟いた。

何も言わぬ満月よ。
俺の願いを全て叶えてはくれないか?




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