悪魔と魔女


朗朗がいなくなり何年が過ぎただろう。
その間にも魔女との抗争は激しさを増していた。
オレは魔王に次ぐ地位にまで昇りつめ、
戦地へ行くことはあまりなくなっていた。

そして最近、
とても心配なことがある。

夜々と戀々の中から出てきたあの球体だ。
年月が経つにつれ輝きが鈍くなっている。

原因を考えるも、
自分では気付いていない内に、
二人への想いや記憶がオレの中で薄れているのでは?
暗に球体はそれを主張してるのではないか?

オレは球体を確認するたびに哀しくて…。

でもどうすれば良いのかわからなくて…。


「何か…術はないのか…」

不安が口から漏れてしまうのも日常になってしまった。
廊下で溜め息をつくのももう何度目だろうか。


「ドクロ様!西ゲートに魔女が現れました!」

前から走って来た悪魔がオレに報告をする。

「現れたのであれば攻撃。
お前そんなことも忘れたのか?」

冷たい視線と言葉をぶつける。
いちいち報告などいらない。
だが、次に発せられた言葉は予想だにしていなかったものだった。


「それが…背中に大きな白旗を持っています。
降参の意だと思われ攻撃を仕掛ける様子もなく、
独りで立っていまして…」


「殺すな、傷なく捕獲し独房へ入れ次第報告しろ」

はいっ!と大きな返事をした悪魔はオレの命を遂行するために去っていった。

…白旗の魔女。
悪魔の世界にたった独りでやって来た命知らず。
一体何者だろう。
何を企んでいるのだろうか。
オレの中で一層の興味が湧いてくる。



「すみません!!わざわざご案内までして頂いて…
お仕事中だったんですよね…?
私の為に時間を割かせてしまって…
ここに入れば良いんですよね!
あ!自分で入れますので大丈夫です!
お仕事に戻ってください…
私はいつも誰かの手を煩わせてしまって…」

「あの自分、今はコレが任務なんで気にしないでイイッスよ」

「そ、そうでしたか…
約束もなしにのこのこやって来た私に、
こんなに丁寧に接して頂いて…」



……………何だコイツは。

魔女だよな?なんで悪魔と普通に話してんだ?
しかも悪魔の方が完全にペースに乗せられてんじゃん。

「はっ!ドクロ様!侵入者を捕獲しました!」


ザッと足を鳴らし敬礼をした悪魔に下がってよいと伝え、
オレは自ら独房に入った魔女と向き合った。


「ここに来た目的は?」

探る視線をこれでもかと浴びせながら魔女に問う。

「目的は…魔王にお目通り願いたく来ました」

小さな独房でちょこりと正座をし、
大きな白旗を膝の上に乗せ、
とても馬鹿げた内容を真剣な表情で言ってのけたこの魔女に、
思わず笑いをこぼしてしまった。

「笑われることなんて千も万も承知で来ています。
魔王に会わせてください」

発する言葉の語尾に力が入り、
機嫌が悪くなったぞと分かりやすい態度の魔女に、
笑ってすまないと素直に謝罪すると、
魔女は気にしないでくださいと眉毛を下げながら微笑んだ。

そしてオレは中断していた話を続ける。

「命を懸けてまでここに来た覚悟は認める。
だが自殺したいのならば他所で独りでやれ」

「死にに来たのではありませんよ」

また、笑った。
オレの皮肉に怒ることもせずに、
ひとつの完璧な意志が宿った強い存在。
目の前の不可解な生き物にオレは惹かれた。


「ならなんだ?
魔王と会って何をする?」

魔女はオレをしっかり見据えて視線を反らさずに語り出した。

「…………私は争いが大嫌いです。
悪魔に生まれたから魔女に生まれたから、
そんな無条件にも等しい理由でお互いを殺しあう。
私は…可笑しいと思うんです。
だから……殺しあいを止めてもらうよう、
魔王に頼みに来たんです」

覇気の無さそうな瞳だが、
その奥に隠れたあたたかな光を見たような気がした。
だが言っていることは滅茶苦茶だ。

「争いが嫌いだと?
悪魔に願う前にまずお前たち魔女を説得したらどうだ?
…っふざけるな!この憎しみが簡単に終わるものか!
この長い歳月、
一体何人の悪魔に魔女が死んだと…
お前だって悪魔を殺したんだろ?
綺麗ごとなんてまっぴらなんだよ!!」

戀々と夜々の笑顔が…
血だらけの亡骸が…
あの時の朗朗の瞳が…

心が痛いと叫ぶ
助けてくれと泣いている


「あなたも哀しい想いを…してきたんですね」

魔女は立ち上がり鉄格子の前にいるオレの…
両手を優しく握った。

「そんな想いを持ってるからこそ…
…終わりにしたいんです」

繋がった手をオレはふりほどけなかった。


「良かった…同じ意志の方に出会えて…
実は魔女の集会で争いをやめるように発言したらですね、
悪魔の手先と勘違いされて、
魔女の世界から追放されちゃいました。
めげずに一人一人に話してたんですが、
貴方と同じことを言われてしまいました…」

悪魔を説得したらどうだ?、と。

魔女は困ったように微笑んだ。
オレは少しだけ罪悪感をおぼえた。
この魔女は、調子が狂う。


「お前、名前は」

名前を聞かれパッと顔を明るくした魔女は、

「…レイニーデイズです」

とはにかみながら笑った。








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