目玉
戀々と最後に言葉を交わした秘密基地。
ここに来ると不思議と落ち着くことができる。
あの日、
夜々と別れた後から戀々とも会わなくなって少し。
原因は分かっていた。
朗朗の背中を見送ったあとに嫌な予感は的中し、
朗朗は左手に重傷を負ったと報告を受けた。
ぐちゃぐちゃした思考がオレを支配して、
衝動的に何かに当たりそうになるのを、
理性で必死に押さえている。
もう何が行われていたかなんて分かりきっているのに。
夜々と戀々は……
生きているだろうか…。
「あ、先生。こんな所にいたの?探してたんだよー」
いつもの平坦な声。
いつものオレを呼ぶ先生という言葉。
ビックリしたオレは急いで振り返る。
そこには右目に包帯をつけた夜々が立っていた。
言葉の出ないオレに夜々が苦笑いを浮かべる。
「目、なくなっちゃった。
んでも朗朗に行ったから消滅したわけじゃないんだけどねー」
「戀…戀々は無事か?」
オレの問いにあからさまに顔色を変える夜々は、
弱々しい声色で紡いでいく。
「ん…とね。戀々さ…もう目…
なくなっちゃった」
耐えきれずに大粒の涙をぶわりぶわりと流しながら、
夜々は泣いた。
オレは両手に夜々を包む。
「…そうか…」
このたった三文字しか口に出すことはできなかった。
「戀々はさ、仕方ないよって笑うんだ。
もう力も残ってなくてベッドから起き上がるのもやっとでさ」
「朗朗が怪我したのは腕だろ?
なんで今回はお前たちの目を腕に移植したんだ?
効果あるのか…?」
悪魔の力の根元は目玉。
しかもそこにはまっていなければ力は発揮されないはず。
だからこそ幼い頃に戀々の瞳を朗朗に移植したんだ。
「それがね…俺たちの目…結構凄い力があるのが分かったみたいで…
それでこれを伝えに先生探してたんだよ。
俺の残りの目を、
先生に移植するって研究員が話してるの…
聞いちゃったんだ」
まてまて…
夜々の目玉をオレに?
冗談じゃねぇぞ。
移植なんぞしなくても魔女になんて敗ける訳がない。
オレの力を見くびってんのか?
焦りが心の中で暴れまわっていたが、
目の前の夜々の細い声が洞窟にふわんと響いた。
「仕方ないよね」
目元を赤くしたままの夜々は、
その言葉を最後ににまりと笑い、
去って行った。
ついに傍観者ではいられなくなる、
それなのにオレは…
何もしなかった…。
去っていく夜々の小さな背中を引き止めることもなく、
助けるとも逃げ出そうとも、
救うべくための行動や言葉をオレは一切発信しなかった。
これは運命だ。
オレたちに選択肢などは用意されてない。
拒否は許されないのだ。
そしてこの会話を朗朗が聞いていたなんて…
知らなかったんだ。
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