ねぇ?先生
月日は流れオレが180cmになった頃。
要請があれば魔女狩りへ地上に上がるようになっていた。
「あっ!先生!探してたんだよっ。
やっと会えた〜」
薄暗い地下廊を歩いていると後ろから声を掛けられ振り向く。
誰かはすぐに分かっていた。
オレを先生なんて呼ぶのは一人しかいないから。
「なんだ?なんか用か?夜々」
黒髪の所々に鮮やかに映える赤いメッシュを登頂部でまとめてお団子に結び、
キリリとつり上がった眉毛に意志の強そうな青い瞳が印象的な狼の尻尾を持つ少年。
それが朗朗の弟、夜々。
「うん、ちょーっと教えてほしいことがあってさ!ここじゃマズイんだよねー」
チラリと上目遣いでオレの様子を伺う夜々を見て、
まずロクなことではないなと直感的に感じた。
「じゃあオレの部屋でいいか?」
「ヤッター!ありがとーね!先生」
夜々は嬉々としながらオレの後ろをついてくる。
「先生また地上に行ってたの?」
「あぁ、朗朗もな」
「ふーん。オレもいつか戦いでもいいから上に行ってみたいなぁ〜」
パスのない夜々は研究所区にしか出入り出来なかったが、
隙を見てはオレを探しにちょこまかと範囲外を行動していた。
見つかったら只では済まないと何度言い聞かせても、
ヘラヘラ笑いながら「大丈夫・心配しないで」のオンパレード。
しかも一度も捕まったことがないので、
もう注意することも無駄に思えてきた所。
部屋に着くと夜々ははしゃぎながら、
「やっぱり先生の部屋は広すぎる!!さすが!」
と感心混じりに興奮していた。
「それより何だ?教えてほしいことって」
許してもいないのにオレのベッドにダイブしていた夜々に声を掛ける。
フカフカ〜とシーツに埋もれながら喋る声はくぐもっていて、
気持ち良さそうなので落ち着くまで待ってやることにした。
オレは無意識に夜々に甘く接しているようだ。
寝転がった姿勢から胡座をかき夜々はオレの方を向いた。
「先生、目玉の力について教えてほしいんだ」
真剣な青い瞳は揺るぎない信念を感じさせる。
オレはこの目が気に入っているのかもしれない…。
「どういうことだ?」
「悪魔はさ、目玉が力の根源ってのは先生から教えてもらった。
戀々は朗朗に目玉を渡した。
何で俺じゃダメだったの?」
「大きな力はそれだけ拒絶反応を起こす割合が高くなる。
お前の瞳は朗朗に適合しなかった…もしくは…
朗朗の瞳よりも力が無かったからだろう」
「俺と付け替えても意味が無かったってことか〜。
へ…凹む〜」
落ち込みを絵に描いたように頭を落とした夜々。
俺じゃ…ダメだったのかぁ…とまた呟いた。
「戀々ばっかりが傷つくの…見てられなくてさ」
言いながら上げたその顔は…今にも泣き出してしまいそうだった。
見ていられない。
この三人の秘密を知ってからというもの、
オレの中の今までの常識が次第に非常識へと姿を変えつつあった。
体のパーツを差し出す戀々と夜々。
それを知らずに受け取っている朗朗。
その秘密を知っていながら見て見ぬふりをするオレ。
頭の中じゃあ割りきっていける、
悪魔に生まれついたからにはこれが運命。
でも…心の中では………。
「先生!大丈夫??」
夜々の声でバッと顔をあげた。
コイツらのことを考えすぎていたようだ。
「あぁ、大丈夫だ」
「顔色悪いよー?」
いつのまにかベッドから降りオレの目の前に立っていた夜々に、
なんでもない、大丈夫だと作り笑いをした。
「ならいっけどさー。
あとね…魔王っている…の?」
小さな小さな声でオレに問いかける。
ここは無法地帯の研究所区とは違うからだ。
「最近噂になってるんだ。
魔王はとうの昔に死んじゃったけど、
俺たちを地下に縛りつける為に生きてることにしてるって。
だってパスなしのヤツが魔女と闇取引してたり…
魔王を見たことあるって話も聞いたことないし…」
その時部屋の外から慌てて走ってくる足音が近づいて来た。
「夜々、隠れろ…見つかるんじゃねーぞ」
ボソリと呟きオレは前を見据える。
夜々がベッドの下に潜り込む音と気配を感じたと同時に、
悪魔の兵士がノックも無しに扉を開けた。
「ドクロ様!入り口付近にて多数の魔女が攻めこんで来ました!
すぐに戦闘に加わってください!」
すぐに行くと声を掛けると兵士は出ていった。
「戦闘かぁ…朗朗も出るんだろうね…
俺、戀々の所に帰って準備しとくよ。
先生ありがとね、
じゃ、また」
夜々は手を振りながら笑顔でオレを見送った。
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