赤い目


子供の頃の朗朗は、
感情のコントロールが下手くそで、
いつもぴーぴー泣いているのを、
よくからかって遊んだ。

ガキの頃、
オレは鳥籠のカナリヤよろしくどこにも行けなかったが、
成長するにつれ自由に歩き回れるようになって、
暗い地底に住む悪魔たちの不自由さを目の当たりにすることも多くなった。

悪魔一人一人それぞれに階級が存在し、
それによって往き来できる場所の範囲も特定されていた。
高い階級にいればどこの地区にもいけるが、
低い階級、階級すらない者にはひとかけらの自由も与えられてはいなかった。

朗朗や弟の夜々や妹の戀々は階級なき者だったが、
オレを倒した朗朗は中間階級が与えられていた。


「ねぇ、ねぇ、今日はどこに行くの?」

興味深々と瞳を輝かせてオレに問う朗朗。

「さぁーなぁ〜。どーするかなぁ?」

オレはどこにでも行けるパスがあるが、
朗朗はまだまだ制限される場所が多い。
それでも地下世界はとても広く、
遊び場に困ることはなかった。

「オレまださ、研究所区に行ったことないんだけど、
行く?」

この言葉に朗朗が情けない悲鳴をあげた。

「やだやだやだよ!!ドクロ知らないんだ!
あそこ…恐い…」

怯える朗朗の頭をはたいた。

「説明しねーと分からないだろ。
どういうことだ?」

「…………悲鳴とか…うめき声とか…泣き声だらけで…
恐い悪魔もたくさんいて…」

焦点の定まらない瞳が小刻みに揺れ、
体を震わせながら情景を思い出している朗朗を見たオレは…

「お前それでも悪魔かよ」

容赦なく頭を叩き半ば引きずるような形で朗朗を連れていくことにした。

研究所区…。
そこは階級のない悪魔の最下層。
魔女との闘いで動けなくなった者やもともと弱く戦闘価値の無い者、
多種多様な生き物がいる。

そしてそこで行われているのは…文字通りの
生物実験。

知識としてはあるもののそこでの行為がどんなものか、
オレは見たことはなかった。

嫌がる朗朗の手を引き歩くにつれ、
だんだんと周りの様子が変わっていくのがわかる。
柄の悪そうな悪魔がうようよしており、
道の端では共食いをしているのもうかがえる。
嫌な臭いが常に鼻に刺激を与え、血がそこらじゅうに散らばる。
そんな地獄絵図をもろともせず、
オレは先を進んでいく。

「!!!!」

突然オレの左手が力強く無遠慮に掴まれた。
振り返るオレの目に映った光景は"赤"だった。

「こんな所をほいほい歩いてるたぁ、バカな子供もいたもんだぜ。
おーいこの高階級の坊っちゃんの身ぐるみ剥いで地上で魔女に売り飛ばしてこい。
高く売れらぁ」

魔法の炎を顔面に超至近距離でくらったオレは、
とっさに防御したものの勢いに負け繋いでいた朗朗の手を離し、
汚ねぇ地面に突っ伏してしまった。

魔女に…売り飛ばす…だと?
それより…朗朗は…

「おー?こっちのお嬢様は…中級か…お前は俺が可愛いがって…まて。
お前…見覚えがあるぞ。
確か研究所の番号持ちだったはずじゃ…」

「離せ!!離せ!!」

「階級貰ったのか…いいご身分だな!!!!」

朗朗がオレを攻撃した悪魔から顔面を殴られた。
襟元を掴まれている為、
殴られ続け逃げ出せずにいる。

「オイ、クソ野郎…お返しだ」

オレの体中を黒い何かが物凄い速さで駆けめぐっていくような感覚…。
これは怒りか…?

一瞬で目の前のクソ野郎を灰にしてやる。

「殺れるもんならやってみろ。
このお嬢さんも吹き飛ぶぜ」


朗朗の首に腕をまわした奴は笑いながら朗朗を盾にした。

「はっ!こんな子供が高階級だと!!笑わせるぜ!
魔王ももう終わってるなっ!
それにお前!確か弟妹のパーツを補填してたよなぁ!
こりゃ、共食いよりたちが悪りぃ!」

パーツを…補填…?
朗朗が…?
今の引っ掛かった部分を頭の中で考えていたら、
朗朗の様子が明らかにおかしくなった。

「……あ……あ…目…目…赤い…赤い…包帯…」

体から物凄い勢いで黒い炎が上がり、
その瞬間…朗朗はバーストし我を失った。

有り余った力は強力な魔法の炎と化し研究区の半分以上を焼き尽くした。

オレは自分の身を守り怪我はしなかった。
朗朗のあの莫大な力よりオレは上回っているということか…。
自分の力が客観的に計ることが出来たいい体験だったと頭の隅で冷静に考えていた。

その後、なぜかオレは独房へとブチ込まれてしまう。

誰もいない暗い鉄格子の中で考えた。

朗朗に初めて会った時の右目の包帯。
階級のない夜々と戀々。
泣き虫朗朗。
そしてバースト。

…朗朗を軸に夜々と戀々から必要なパーツを組み込み強化していく生物実験をしているのか…?

精神的に安定していない朗朗の原因はこれか…?

一通り考えたが結論は出る訳もなく諦めたオレはベッドもない暗闇で立ったまま寝ることにした。






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