鳥かご


ノバリもIQも生まれてなくてビスケットもまだ造られていない昔。

オレはまだ145cmのガキだった。

悪魔の国は地下にあった。
そしてとてもとても広いと誰かから聞いたことがある。
その真実を確かめたことは一度もないけれど。
オレは悪魔の王様の住む大きな城の中で生まれ、
与えられた不自由のない大きな部屋から出たことは一度もなかった。
扉の前に監視がいて少しでも開けようものなら、
瞬間にバタリと閉ざされてしまう。
そのくせ鍵はかけられていない。

オレの部屋に鍵がかけられるのは、
王様が来るときだけだった。

一人きりで過ごす、
そんな退屈な毎日の中で、
オレは白い立派なタンスの下に、
誰にも気付かれないように穴を掘っていた。
もちろん部屋から抜け出すために。

別に悪魔の国から脱走したいとかそんな大袈裟な考えなんてなかった。
ただこの部屋以外の場所があるのかを見てみたかった…

そう只の子供の好奇心。

体は大きくならなかったけれど、
魔力だけは日に日に強くなっていく。
蓄えられていく力を放出し、
穴を掘る作業が楽に出来るようになり、
ある日の早朝、
遂にどこかの場所と繋がった。

小さく開いた穴から光が見える。
灯りがついてるということは誰かの部屋か…?
片目程の穴から下を覗いてみると、
灰色のお世辞にも綺麗とは言えない部屋の中、
オレと同じ位の子供が、
古そうなパイプベッドの上で膝を抱えている。
見回す限り部屋にはソイツ以外はいないと分かり、
オレは初めて自分の部屋以外の場所へと足を踏み入れた。

突然天井の壁が壊れ上からオレが登場したので、
長い黒髪を後ろに結び、
黒く尖った獣耳に尻尾。
右目に包帯を巻いた赤い目の子供は驚いた…。
いや、脅えていた。

「オレ、ドクロ。お前名前は?」

ベッドの上で震えながらこちらを見るヤツに、
自己紹介し相手の名前を聞く。
すると小さな小さな言葉が聞こえた。

「名前?僕は番号1172だよ…。君こんな所に来たらお仕置きされてしまうよ…?」


驚いた。
名前が番号?
なんだそれ。
しかもお仕置きって?

「…オレ、一度も自分の部屋から出たことがなくて…
上から下に一直線に抜け穴掘ってたんだ。
そしたらここに着いた。
これはお前の部屋?」

すると眉毛をハの字にした1172は言った。

「僕の部屋…じゃない。
僕、目が悪くて治療するからここに連れて来られたの…
弟と妹と引き離されて…心細くて…」

そしてワンワン声を上げて泣き出した。
鬱陶しくなったオレはとりあえずヤツの頭をはたいた。

「うるさい。泣くな。…んで目は治ったのか?」

痛いよー!と頭をさすりながらこちらを睨んでくるヤツは、
また悲しそうに言った。
けどもう泣いてはいなかった。


「分からない…。ここに来る前だって別に目なんて悪くなかったのに…」

一体ここは何なのか?
気味が悪くなってきた。
話に集中していてドアの前で足音が止まったのに気付くのが遅くなってしまっていた。

開けられた扉から白衣に身を包んだ二人組みの長身の悪魔が入って来る。

間一髪、魔法で天井の穴を塞ぎオレはベッドの下へと潜り込み息を潜める。
そこからヤツらの話に聞き耳をたてた。


「1172!何を騒いでる!!」

いきなり怒鳴りつけてきた白衣の悪魔はベッドの上の1172に掴みかかって来たようで、
振動が伝わってくる。


「ごめんなさい!ごめんなさい!弟と妹がいなくてさびしくて…」


舌打ちが部屋に響き、
「次に騒ぐと兄弟に会えなくなるぞ」
脅しの言葉を吐き捨て二人は部屋から出ていった。
オレは辺りを確認しベッド下から這い出た。


「見つからなくてよかった」

笑った1172はとても嬉しそうで、
オレはコイツが心配になった。

そして少しの時間話した後で、
オレは天井の穴から帰ることにした。

「次はもうこの部屋にはいないかもしれないよ?」

「そんときは探しだしてやるよ」


「うん。待ってる」


約束はだいぶん先に果たされることになる。
そうとはまだ知らないオレたちは、
笑ってさよならをした。



 back 

TOP
×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -