フレイム


「私の記憶が確かな内に君に話しておきたい」

彼は夜の暗闇の中に小さな星形の石を取り出して念を込めた。
すると石はひとりでに浮き淡いクリーム色の光を放ちはじめる。
その星を中心とし、
彼は静かに語りだした。


「カミナリの国では、まだ数の少なかった人間を連れ去ってきては闘技場で闘わせていた。
最初は道具など一切使わないただの殴り合いで、カミナリの住人の軽い娯楽に過ぎなかった。
それが地位の高い者の介入によってどんどん形を変えていって…。
彼らは賭博とスリルを求め、もっと強い興奮を追うようになってしまった。
その結果、人間をより強い者へと改造し力をどんどん与えていく。
それはとどまることを知らない。
闘技場はどんどん規模が大きくなっていき、ついに王家は闘技場を廃止した。
でもやはり無くなることはなかった…」

カミナリの国は恐ろしい所なんだな…
黒猫はぶるりと身震いをした。

「私は怪我をした闘技士たちをこっそり治療していたのがバレてしまってね…
空では使えなくなれば生きていようと、それで終わり。
闘技士達を空から棄てていたんだよ。
治療なんて御法度。
命なんて使い捨てで新しい者をまた造ればいい…そんな考えが許せなかった私は生き返りを研究することに力を注いでいった。
そして心臓にある核を発見して、この地に生き返りの町を造ることに成功した。
でもそれが空の王に見つかってしまい…
罪人になりカミナリの国からは永久追放。
この樹に繋がれて動けない体に…
私の恋人だった彼女も白いカラスの姿に変えられ…
共犯として一緒に地上に堕とされてしまった。」

黒猫は白いカラスを見た。
女性だったのか…。
きっと前はとても綺麗な人だったんだろうね…。

「空から堕とされたモノはもう空へは帰れない。
あぁ!私は元々住人だからね、地上への行き来は罪だけれど、
ここに繋がれる前は可能だったんだよ」

この地上には空から墜ちて来たモノがたくさん埋まっているんだろうな。
さぞ悔しかっただろうに…。
黒猫は悲しい気持ちでいっぱいだった。

「私はね、この樹に繋がれながら生まれる前の姿に戻っていくんだ…。
だからどんどん記憶が薄れていくし、
体も小さくなっていく。
恋人だった彼女のことも…友達の君のことも…」

そしてラルさんは言った。

「君を忘れてしまう前に、さぁお行き。
その力で好きな所に行き、
たくさんのモノを見て、
色んなことを学んでおいで…
どこにも行けない…私の代わりに」

笑った顔がとても嬉しそうで、
そんな顔されたら…どこにも行きたくないのに…行かなくちゃいけなくなるじゃないか。
ラルさんは意地悪だ。

「また帰ってくる!そして色んな世界を見てラルさんに…今度はワタシが教えてあげるから!
…最後にワタシに名前をください」

彼は目の前の星を眺めながら、顎に手を添えてしばしの沈黙。

「うん。君の名前はフレイム…フレイムがいい」

そしてその夜、黒猫フレイムはラルさんと白いカラスに別れを告げ、
世界を旅する魔法使いになりましたとさ。


「おしまい。どーだった?このお話」

ノバリは泣きながらラルに抱きついている。
ラルは本当に何も覚えてないようで、
一人困惑している。

「おい、質問いいか?」

なんでしょかー?とフレイムの明るい返事にオレは続ける。

「ここもJEMMYの敷地なんだろ?なんで入口隠してたんだ?」

「それはですねー。小さくなっていく彼が心配で誰も入って来られないようにワタシが去り際に魔法をかけておいたんです。
でも最近魔法が解かれてしまって…」

オルガだな…。
なんでもかんでも魔法、呪いとあれば解いて回ってるんだろう。
律儀な性格だな…。

「そう、そしてワタシはなんでも知っているんですよ。
ドクロくんが何を持ち去り所持しているのかも」

オレの秘密を…知っている…?

「あー!いたいた!探したぞー!」

大きな声と共に姿を見せたのは…
ショコラだった。







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