子猫と翡翠


"どうしてJEMMYができたのか"

そう言った目の前の猫はいきなり手の内からピンク色の煙を出した。
流れ出る煙は甘い食べ物と微かに魔法の匂いがした。
そこから現れたのは柔らかそうなクッションが3つ。
水色をノバリに、黒色をオレに。
最後に薄緑のクッションをラルに渡した。

「ちょーっと長くなるかもだから、みんな座って聞いてネー」

はーい!と元気よく返事をしたノバリはラルの手を引いて、猫の前に陣取った。
オレは樹に止まっている白いカラスが気になってしょうがない。
襲って来るかもしれないし…。
オレは監視の意を含めて樹の横にもたれかかることにした。

「ドクロくん、クッション使わないの?
んではドロン」

ドロンの声と共に横に置いていたオレのクッションがまた煙に戻り風の力で消えていった。
魔法を使う猫。
けれど魔女とは何かが違う、異質な…力。

「さて、ノバリちゃんはカミナリの国を知ってるかな?」

ノバリは知らなーい!とハッキリと答え、
ラルも首を横に振っている。

「ドクロくんは?知ってる?」

名前を呼ばれカミナリの国の情報を頭の引き出しから探しだす。

「地底の悪魔の国、んで地上、空の上にある神様が住むカミナリの国。
それくらいしか知らない」

カミナリの国。
地底とも地上とも一線を引き干渉をしない。
オレもそれが在るとしか聞いたことがなく、本当にあるのかさえ考えたこともない。

「そうだね〜実はワタシもよく知りません〜!ただ…このJEMMYを造り出したのはカミナリの国の住人デス」

核から生き返る町を造った…?
そんな事できるのか…?

「ここを作ったなんて!すごい人なんだね!ねぇねぇ!どんな人??どんな人が作ったの?」

猫は耳をピンっと立てて「知りたい?」と勿体ぶった風に笑う。

「さぁて!それはいったん横に置いておいて」

横にモノを置くジェスチャーをしながらノバリの質問をひらりとかわした猫は、
事の顛末を話始めた。


左目が潰れている小さな黒猫は親に見捨てられフラフラさ迷いながら歩いているうちに、
森の中から出られなくなってしまった。
ひもじさと闘いながら水を求め、また体力を失っていく悪循環に耐えられなくなってきた時。
黒猫を呼ぶ声が聞こえた。
力を振り絞り声の方に地面を這いながら進む。

「もう大丈夫だよ、ここまで来たら届くから」

優しく大きな手に抱きかかえられ、見上げた猫の目に映ったのは光りに照らされキラキラと眩しい宝石のような翡翠色の髪の毛だった。

そこからどのくらい寝ていたのか分からないけれど、起きた時には誰かの膝の上だった。

「おはよう、今日はとてもいい天気だよ。見てごらん」

そう言われ周りの風景と空を見る。
確かにいい天気で気持ちがいい。
あれだけ暗く感じていた森の雰囲気はどこにもない。
膝の上から優しくストンと下ろされ、膝の主と向かい合わせになる。

薄緑の長い髪の毛。
捨てられる前に一度だけ見たことのある翡翠という石が目の中にあるみたいで、
瞳に入り込む光がより一層の輝きを放つ。
その主は座っているけれど多分とても大きい。
前開きの左右の布をあわせたような服の隙間から見えた胸は真っ平で男だと分かる。
ジャラりと主さんの両手から金属音がして目線を動かす。
外れなさそうな頑丈な手枷がはめられていた。
そんな事なんて気にもならないといった感じの主さんは、

「初めまして黒猫さん、私はラル。
宜しくね」

黒猫の右の肉球を無理矢理握ってきた。
これが握手という挨拶なのは後から教えてもらった。

数日一緒にいて彼が自分の事を少しづつ話してくれた。

「私はね、空の上に住んでいたんだけれど、あそこの人達とは気が合わなくてね…
地上に時々降りて来てたんだ。
もちろん内緒でね」

ラルさんの話を暖かい日だまりの中でうつらうつら聞いている。


「空…カミナリの国は今、王の後継者問題とかそんなつまらない事でごった返してたり…闘技場で造られたモノを互いに闘わせたり…吐き気のする出来事ばかり…
地上はいい。
緑は豊かで空も雲も風も綺麗で、
そして何よりも静かだ…」

手元の分厚い本から目を離し空を見上げる。
その表情はどことなく悲しそうだった。

話の相槌を打ちたいのにニャーしか出ない口が悔しくてたまらない。
あなたの言葉わかる、
理解してるのに…。

「話し相手がいるというのは嬉しいことだねぇ」

彼は真後ろの大きな樹の枝にとまる白いカラスに向かって穏やかに笑った。



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