運命をかえるモノ


「このクソ餓鬼!まてっ!」

私を買ったのは、大きな屋敷に住む男だった。
買われてすぐに屋敷を抜け出した。
5歳の時、親から身売りされたのを皮切りに色々な場所を転々としてきた。


「捕まえた!奴隷の分際で逃げるとは、いい度胸じゃねぇか!」

脱走を図った私は屋敷の使用人に追われていた。
大概の酷い扱いは受けてきたが、今回はまるで話が違う。


「御主人の機嫌をそこねたら、俺が殺されるんだよ」

お前が死んでも関係ない。と内心毒づいたが、
相手も同じ気持ちなんだろうなと思った。


「はっなせ!いやだ!」

渾身の力を込めたが、やはり大人の男には敵わない。


「なーにやってんの?」


覇気の無い声が、青空の下に響いた。


「あっ!朗朗様!いや…新しく来た奴隷が脱走しまして」


「ふーん。ここの主人狂ってっからね。
まぁ、でもそのおかげで、俺らも商売が出来るんだけど」

どうやら屋敷に出入りしてるらしい奴は、切れ長の目に狂気をちらつかせ笑った
そして私を見た。


「きったねーなりだな。あの話聞いて逃げ出したか?
まぁ誰しも命は惜しいからな」

しょうがない、と奴は言う 。
うーん。と私を見たまま唸り声をあげ、数秒。


「こいつは俺が買おう。決ーめた。
主人には俺が言っておくから、離してやって」

今すぐに、
使用人を睨む瞳は、有無を言わせない威圧感だった 。
使用人は私から手を離した。


「朗朗様が言うならしかたない…ですが今すぐに事情を説明してください!
私が罰を受けてしまいます!」

使用人も必死だ 。
主人にも逆らえないが、目の前の男にも逆らえない 。
どちらかの機嫌を損ねたら自分の命はない。


「わーってるって。
今行く所だったんだから」

朗朗と呼ばれた男は私に近づいて言った。


「どーせ行く所ないんでしょ?
そんな時間はかからねーから、
俺が帰ってくるまで、ここで待ってな」

私はコクリと頷く 。


「いい子だ」

と彼は私の頭を撫でて屋敷へと消えた。


そして数時間後、
炎に包まれた屋敷から朗朗が一人、出て来た。

彼は私を見つけ少し手を上げ左右に振った。

私は、
無表情に彼の後ろに燃える大きくゆらゆら揺れる火を見ていた。

業火を纏い現れた黒髪の人物は、噂話にしか聞いた事のない悪魔なのかもしれないと思った 。
けれど恐れなどは一切感じなかった。


「おまたせ。さ、いこっか」

彼はスタスタ速い歩幅で先を歩く。
私はついて行くだけで精一杯だった

後ろを振り返ることなく命拾いをした 。
ただ、それだけを思った。


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