朗朗とビスケット


時期的にいうといつくらいだったか…
えーっと確かニッカが生き返った数日後かな。
ビスケットの庭で茶でも飲もうと足を運ぶと、
そこには珍しく誰もいなくて、
あいつらがいつもタムろしているテーブルへ向かい腰かけた。
そこでふと目を閉じてみる。
蓋をされた瞳から空の光が淡く広がる。
心地良く吹く風と、それに揺らされる草木の重なり離れていく音を聞いていた。
ただただ同じような音が俺の鼓膜をくすぐるようにゆらしていく。
全てが優しくてなぜかそこにIQの顔が浮かんだ瞬間、
自分の瞳から流れ出たものに怯え目を開けた。
ここで思い出したのがIQだったことに自己嫌悪感に襲われた。


「うそだろ…まいったなー!」

空に向かって叫んだ。


「朗朗来てたんですか。今お茶を用意してきますね」

さっきの俺の声でビスケットが、
勝手口から現れて俺を見てまた家に戻って行った。
まさか今の見られてないよなぁ…どーしよ…

数分後、お茶を持って来たビスケットにおそるおそる確認。


「空に話しかけてたことですか?内緒にしておきますよ」

クスクス笑いながらビスケットは紅茶を注ぎ始めた。


「ん…あ、それそれ…黙っておいてね。
他の奴らはどこに行ったの?」

カチャ…と控えめな音をたてソーサーの上にティーカップを置いた。


「IQとニッカは朝ごはん食べた後にアトリエに戻りましたよ。
キコリーズの二人は朝から見てませんね。
ノバリとドクロは博士のお墓にいきましたよ」

なので私一人でしたので朗朗が来てくれて嬉しいですよ。
そう笑った。


「ビスケットは綺麗に笑うのに、ロボットなんだよなー」

俺は向かいに座っているビスケットの頬を結構強くつまんでみた。
皮膚は人のそれと同じなのだが、


「強く引っ張ってるでしょう?かかっている力は算出できますから。
でも痛くありません。
…私はいつ壊れるのでしょうね」


「そんな風に笑うな」

俺は引っ張っていた手を緩め、赤くもならないその頬を撫でた。


「ええ、すみません」


「壊れたくなったその時は、俺がバラバラにしてやるよ」

約束ですよと笑うビスケットの顔を見ると、
こんな俺でも少し切なくなる。
レイニーデイズが造り出したこのロボットは、
主人が死んでも動き続ける。
自分の意志では死ねないのだ。

昔レイニーデイズに言われた。


「死んでは駄目ですよ。よく考えてみてくださいまだするべき目的があるじゃないですか。
もちろん私にもあります…お互い頑張りましょう…よ」

泣きじゃくりながら言うレイニーデイズに、
俺も一緒に泣いた。


「レイニーデイズ…会いたいねぇー!」


「えぇ本当に」

穏やかな空に風。


「そういえば朗朗、IQから聞きましたが。
ニッカをリンゴの木に埋めると生き返ると、
なぜ知ってたんですか?」

ビスケットが興味ありげに聞いてきた。
IQから頼まれたのか?俺素直じゃないからすぐIQにはぐらかしちゃうんだよなー。


「外にいるときにさー。
頭から足先まで隠れるような黒いマントを被った奴から話しかけられて、
ニッカをリンゴの木に埋めたら生き返るって。
そいつ追っかけたけど逃げられて…
本当あいつ何者だったんだろ…今でも不思議なんだよねぇ」


「ここの事情を知っている方なのでしょうね。
もしかして博士だったりして…命日の日に実体に戻るらしいですしね。
博士は日記を書くのが大好きでしたから、
実体になったらこそこそ日記を書いているかもしれませんね」

飲みかけたカップをビスケットの言葉でテーブルに戻す。


「レイニーデイズの日記…?」

きょんとしているビスケットは、ええ。
と短く返事をした。


「私が造られる前から書いていたと聞きましたが。
日記はどこにあるかは知りません。
プライベートな物ですし、
確か開く為の合い言葉があったはずですよ。
私は知りませんけど」

俺はなにも言わず素早く席を立ち煙りに紛れて庭を後にした。


そして先日、ショコラがレイニーデイズの日記を持っているのを見つけた。
よりにもよってショコラとは…頭痛がしてきちゃったよ…まったく。
しかも日記を開いていた、奴は合い言葉を知っている。
その時は引き下がったが、
ショコラに日記を見られるのは都合が悪い。
俺は奴を監視することにした。


んで今に至る訳だけどショコラの家には侵入成功。
ショコラは研究室に籠っていていっこーに出てくる気配なし。
…一旦レイニーデイズの部屋に行き、日記だけ手に入れておくか…。
そう決断した俺はショコラの研究室を後に、
取り合えず庭へ行くことにした。

この時俺は知らなかった。
思っていた以上にショコラを甘くみていたことを。


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