マジックハンド


それは穏やかな日だまりの中に突然現れた

暗闇だったのかもしれない


ポルカが不思議な森で斧を落とした次の日の午前中。
ニッカはビスケットの庭で朝食を食べてIQの家に戻る帰り道。


「おい。そこのお前。」

呼び止められたので振り返り声の主を見つめた。
初めて聞く声だったからやっぱりとは思いつつ、
それは知らない人だった。


「ドクロを探している案内しろ」

何て言うのかすごくふてぶてしい物言いに、
思わずカチンときてしまい、
言い返してしまった。


「……そっそんな言いかたされたら…
教えたくもなくなります!!
お名前を名乗ったらどうですか!」

私にしてはかなりの勇気を出した。
その人はスタスタと大幅な足取りで近づいて来たと思ったら、
いきなり私の胸ぐらをつかみあげて、
こう言った。


「私は急いでる。お前がドクロか」

掴まれた胸ぐらに力を入れられ、
地面から両足が離れてしまい恐怖を感じる。
足をこれでもかとバタバタと動かして、
下ろしてアピールをしてみるものの、
その力は私には到底敵わない。


「ぐるじぃー!はなじでー!!」

胸ぐらを掴んでいる手をバシバシ叩く。


「わたじぃ!ドクロじゃなーい!」

渾身の力を腹に入れて人違いですよ!と叫んだ。
するとそのままタンっと地面に下ろしてくれた。
首を押さえ後退りしつつ目の前の人物を確認する。

腰まであるだろう金色の髪を上の方に一つに束ね、黒い小さいリボンのついたカチューシャをしている。
背は高くビスケットと同じくらい?
大きな襟を立てた白のブラウスに、グレーで長めのジャケット。
白のズボンにアーガイルの靴下、黒のローファー。
言動に似合わず身に付けているものは可愛らしいかもしれない。

今までJEMMYの皆を見てきて、
だいたいは慣れていたけれど、
その人の耳はひし形の緑色。
長く縦に伸びているトカゲのようなしっぽ。


「人違いだったか。謝る、すまなかったな。」

丁寧とは遠い謝罪だったけれど、
差し出された右手に少し優しさが垣間見れる。
私はその手取って立ち上がる。
その人は中腰になり、
私の服についた土を落としてくれた。
ぼーとされるがままになっていたら、
その人の腰に下げている緑のマジックハンドが掴んでいる物に目を魅かれた。

赤い杖の後端に金色の鈴。

ポルカの斧である。

あった。
この人が拾ってくれてたのか。


「ニッカー!庭にハンカチ忘れてたよー」

ちょうど良い所に斧の持ち主が走ってやって来た。

ポルカの声に反応し、その人はすっと立ち上がり素早くポルカの方に向き直る。
無駄の無い綺麗な動作に少し見とれてしまう。


「…あれ?それボクの斧」

斧にいち早く気付いたポルカは、
マジックハンドを持った人に近寄る。


「これは貴様の斧か。お前は……」

ドクロか?と言うの待っていたが、
次の言葉は出て来なかった。


「あれ?あれれ?そのシッポにマジックハンド…そのしゃべり方…
オルガ…?」

オルガ!!この人がドクロの命を狙ってるっていうオルガ?
なんていうかすごく厳つい魔女を想像してたから、
びっくりしてしまった。

この人が世の魔女を全滅させたんだ…。
一体どれだけの命を奪ってきたのだろう。


「役立たずのコウモリ、生きていたのか。
どういった経緯でその姿になり、ここにいるのか簡単に話せ。
そしたら斧は返してやろう」

ポルカはえーっとと言いながら、
ここにきて核から生き返ったことと、
居心地がいいからショコラと一緒に住んでいる。
それだけを伝えた。

ノバリの綿毛の秘密や、私の生き返った理由、ドクロの居場所などは伏せているようだ。
ポルカが一生懸命核心を突かれないように話すから、
隣で聞いていた私はハラハラ。

一通り話終えてからオルガは言った。


「そうか。お前も少しは立派になったんだな。
でも甘い。吐け、何を隠している。」

オルガがポルカにサソリ固めを決める。
ギブギブと声にならない声でポルカは叫ぶ。


「降参するか?」

ポルカはすごいスピードで頭を上下に振った。
オルガは腕の力を緩めたが逃すつもりはないらしく、
まだポルカを拘束している。
上手だなと思った。


「オルガはなんでドクロを殺そうとしてるの?
また朗朗と手を組んで何かするの?」

また…という言葉が引っ掛かったが、
私は黙って二人のやり取りを見る。


「私がドクロの命を狙ってなんのメリットがある?
馬鹿馬鹿しい、ただ用があるだけだ。
それにお前、ドクロを知ってるのを何故先に言わない。
私は忙しいんだ。案内しろ。」


「ドクロを殺しに来たんじゃないの?」

ポルカはまだ疑っているらしくなかなか食い下がらない。
心底うんざりした顔でオルガが言い放つ。


「誰がそんな事を。くどいぞコウモリ。」

緩んでいた腕に力を込めはじめたオルガに、
ポルカは焦りながら、


「ドクロ今日、いないかもしれないよー?」


「それでもいい。出没する場所に案内しろ。」

ぶーっと言いながらポルカはしぶしぶ了承した。
ニッカどうする?と聞かれたので、
もちろん付いて行くことにした。

ビスケットの庭へ案内することになったが、
その道中、オルガはポルカが逃げないように、
ポルカの背中の羽根をずっと引っ張っていたのが、
なぜかすごく可笑しかった。










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