博士の日記


ショコラは研究室に戻り博士の遺品の研究書に目を通していた。
でもどれも変わらず前に読んだ時と同じ記述。
顎に手を当てしばしの思案。


「日記帳…か」


そういえば博士の研究書などもろもろを譲り受けるとき、
さすがに日記帳はいらないやと博士の部屋に置いてきていた。

たたたと早足でビスケットの家に向かう、
庭ではみんながぎゃーぎゃー騒いでいる。
ノバリとドクロが帰って来たらしい。
みんなに見つからないようにコソリと忍び足で、
2階の博士の部屋に侵入。
ドアの鍵がかけられていなくて助かった。

そこは8畳ほどの部屋。
沢山の本棚はオレが書物を抜き取ったからもぬけの殻で。
出窓からは庭の様子がよく見える。
そこの日当たりの良い場所に木製の机と椅子。
博士のお気に入りの定位置だった所。
机の上にある林檎形のランプは埃もかぶらずにそのままだ。
毎日ビスケットが掃除をしているんだろうな。

右側にある3つの引き出しの真ん中。
確かここにあったと記憶してるけど…。

あった。
8センチくらいの厚い立派な本はエンジのベロア素材。そこには不釣り合いの黄金色の南京錠がついている。
これが博士の日記帳。
確か秘密の呪文を唱えなければ開かないはず。

えーと何だったけな。
昔博士が、

「これはですね、呪文を唱えなければ開かないんですよ!
すごいでしょう?」

「ねぇー博士なんて言ったらあくの?」

「合い言葉はネガティブです」

「はーい分かったぁ!」

「言っちゃってるよ…博士ダメじゃん…」


ってやりとりがあったな。
思いだし笑いながら小さな声で唱えたネガティブ。
黄金色の錠がガチャリと重たい音と共に解除され、
本がバラバラと風に舞うようにはためく。
そして最後の記事のページで止まった。

やはり。
日付を見てみると、この前の博士の命日が最後。
前のページも確認してみると、びっしりと日記が書かれている。
博士は死んだ後も日記帳を書き続けていたようだ。
ニッカから博士が命日に近づくとゴースト化し墓から追い出され、
命日には実体化すると言っていたから、
もしやとは思ったが…。
博士は何事も文字に残すのが癖だから。
ペラペラとページをめくり博士が描いたスケッチに目が止まる。
"泣き虫のラル"と書かれた文字の下。
薄緑…翡翠に近い髪の色に同じ色の瞳。
足と手に鎖付きの枷をはめられている、スケッチを見る限り罪人に見えるが、
オレの興味をひいたのは、その首の枷からさげられているエンブレム。
三ツ又の槍が2つ交互に重なっている。
これは確か…
本を持ち帰ってゆっくり見ようと思った時、
あの雰囲気を感じた。
オレのもっとも嫌いな…


「窃盗なんてしたら怒られちゃうよー」

背後、ドアを塞ぐ形で立っていた朗朗。
面倒くさい奴に見つかってしまったな…。
正直、げんなりして吐くかと思った。


「借りてくだけだ。用が終わったら返す」

ドアを塞がれているため朗朗をあしらうのは無理かもしれない、
どうやって部屋を出ていくかフルスピードで考える。


「レイニーデイズの日記かぁ。何が書かれてたのー?
…ショコラ…何を調べてる」

口調や声のトーンは変わらなかったが、
最後の言葉に朗朗の目の色が変わった。
あぁ、分かりやすい。
飄々と本意や本心を見せないようにしている男だが、
オレには効かない。こいつは案外分かりやすいのだ。


「朗朗はオルガに何の呪いを解かせようとしてるんだ?」

オルガが近くに来てるとポルカから聞いた。
ドクロを殺しに来たと言っていたが、
オレの中のオルガのイメージ像には合わない。
だからなんでと考えた時、
オルガの得意技、魔女の呪いを解く。
という結論に行きついていた。

朗朗が関係しているかは賭けだったけど。
このカマに引っ掛かかるだろうか。
朗朗の言葉を待つ。


「ふーん。そこまで知ってるんだぁー
どーしよっかなぁー」

選択したその言葉…
オレの考えは間違っていないと確信が持てた。
あと知りたいのは朗朗がこの部屋にいる理由。
たまたまコソコソ部屋に入るオレを見つけてつけてきたのか…博士の部屋にあるモノが目的だったのか…。
それとも両方か。
理由は知りたいが朗朗と一緒にいるのは得策ではない。
一刻も早く部屋を出なければ、しかも自然に。


「オルガの呪い解除を知ってるのは意外だったなぁー」

朗朗がこちらに近づいて来る。
オレは持っていた日記帳を引き出しに戻し、
"ポジティブ"と小声で唱えた。
日記帳の黄金色の錠にガチャリと鍵がかかり、
さりげなく引き出しを閉じた。


「オルガは有名だし。博士から聞いたことがあるしね」

深く話すと朗朗が気づいてしまうかもしれない。
そんな面倒くさいことに巻き込まれるのは御免だ。


「さぁーて、オレは庭に行っておやつ食べないとな。
朗朗も行くか?」

出窓からちらりと庭を覗けば、
ホットケーキがどうのこうのと騒いでいる。


「俺は遠慮しておくよ。忙しいんでね」

そう言い朗朗は黒い煙に紛れて消えていった。
朗朗の気配がなくなったが、今後かなり注意しておかなければなと心にとめておくことにした。
みんなにオルガがドクロを殺しに来たなどと言い。
朗朗は何を企んでいるのか…。

博士の日記を見たいが今日はやめておくことにしよう。
オレは庭へは行かず研究室へ戻ることにした。















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