薄緑のゴースト


森の中を進んで行くにつれて、
だんだんと暗い森の雰囲気が漂ってきた。


「みてみてドクロー!とげとげー」

道端に落ちている枝を拾ったノバリは、
枝を振りながら上機嫌。

しかし奇妙なのは、その枝。
真っ黒で枝の先が矢印の形をしている。


「ここら辺は、呪いの匂いがするなぁ」

ドクロがすんっと鼻を鳴らす。


「呪いってにおいがするの??」

そう言いながらノバリは、
犬のように鼻をすんすんさせながら、
辺りの匂いをかいでみた。


「なんてゆーか嫌な匂いはするよ。
昔から呪いの匂いには敏感だから」

ドクロがノバリに手を繋ぐように合図した。
その手を取り空いている方の手で、
全然わからなーい!と枝を振り回しながらも、
先を歩く二人。


「ポルカ、どの辺りに斧落としたんだ?」


「ないねぇ…けっこう歩いたと思うんだけどなぁ…」

森に入って一時間は経っているが、
一向に落とし物に出くわさない。
不気味なのは、
暗い森の木々が、
徐々に上から覆い被さってくるような圧迫感に襲われること。


「あれ?あそこだけ色があるよ」

目をぱちくりさせたノバリの指差した先には、
細く刺々しい深緑の枝に、
背の低い樹が一本。

おかしなのは周りは相変わらずの黒や紫、
濃紺の色みしかない木々が、
その樹を中心に避けるように円を描いて生えているから、
そこだけ地がひらけている。

なぜか場違いにも芝生のように淡い緑に包まれているのが、
また違和感を与える材料になっている。


「ちょっと行ってみようよ!」

ドクロの手を引っ張りながら樹まで走る。


「なんだか一人でぽつんとさびしそうな樹だね…」

ノバリが奇妙な樹に触ろうとした、
その時


「さわらないで…さわっちゃ駄目だよ…」

弱々しい声が上の方から降ってきた。
見上げた二人の目にうつるのは…

勾玉の形をした薄緑のゴースト。

ふわふわと揺れながら魂だけの存在のように儚く、
今にも消えてしまいそう。
よくよく見てみると魂の尾が、
あの樹から出てきているように見える。


「お前、この木に繋がれてんの?」

ドクロがゴーストに話しかけた。
しかし薄緑のゴーストは、
ドクロの問いには答えずに、


「君たちは、ここにいたら駄目…
帰って」

今にも泣きそうな震える声で、
ゴーストはそう告げた。


「みちにね、迷っちゃって…あと
ともだちの落とし物もさがしてるから、
まだ帰れないんだぁ〜」

ノバリは困ったように笑う。
ドクロはゴーストを観察しつつ周りにも目を凝らしてみる。

相変わらず光は届くことなく、
時おり吹く生暖かい風が、
暗い木々をざわざわと揺らす。

ドクロは気づいた。
このゴーストは呪われている。
しかもかなり強力な呪術。
森がそれに影響を受け、
それ相応に変化してしまっている。

ここに長居は禁物。
いくら死なない体のノバリだとて、
どんな悪影響を及ぼすか分からない。

悪魔は呪いを使えない、
だから呪いにかかると自分では解除不可能。
とても厄介な代物だ。


「ノバリ、帰ろう」

くいっと手を引っ張るドクロの力を、
ぐっと引き寄せるノバリ。
ノバリは意外にも力持ち。


「ちょっとまって、
もう少しだけお話させて…?
ね、ドクロ」

大きな瞳でそんなことを言われたら、
ダメとは言えないドクロ。
ノバリにはとてつもなく甘かった。


「はぁー。分かった。
名前と事情くらい聞いてやろう。
でも終わったらすぐに帰るよ」


「ありがとう!
ドクロだいすき〜」

がばりと抱きついてくるノバリに、
少しよろけながらも、
がしりと受け止めるドクロ。
その重みが嬉しくてたまらなかった。


「とゆーわけだからさ、
名前なんての?」

向き直りゴーストにたずねる。
ゴーストは少しびっくりしたようで、
大きな薄緑の瞳が揺れた。


「僕はラル…なぜか分からないけど、
気が付いた時からずっとここから離れられないんだ…
何年も何年も」


「お前、記憶がないのか」

ドクロはこれはまた厄介だと眉をひそめた。


「悪いがオレ逹がお前にしてやれることはない。
帰ろうノバリ」

触らぬ神に祟りなし。
これ以上の関わり合いは御免だとドクロは、
さじを投げた。


「いいんだよ…だから早く行って」

ドクロがノバリの手を引っ張った時、
空から大きな大きな真っ白のカラスが、
バサバサと大翼をはためかせ、
ラルの樹に止まった。

すると勾玉のただのゴーストだったラルが、
人の形に姿を変えた。

薄緑の髪の色、肩くらいまで延びた髪が外にぴょんぴょんとはねていて、
髪と同じ瞳の色は、とても大きく丸い。

上半身は裸で、
下は着物に下駄。
両手首足首に古そうな、
だがとても頑丈な枷をはめられており、
そこからジャラリと金属の重たい音が響く。
逃げ出せないように鎖が樹にくくりつけられている。


「おー!へんしんしたぁー!!」

ノバリは手を叩いて驚く。


「お前…罪人か…?」

ドクロがラルの目を見る。
ラルは泣きながら言った。


「覚えてない」

ただそれだけを必死に、
両手で顔を隠し、
指の隙間から涙がこぼれ落ちていた。


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