リンゴの樹



ニッカが亡くなってから、
ノバリとポルカはニッカを埋めたリンゴの木から一瞬たりとも離れなくなった。
二人はそれぞれ好きなように寝そべっていたり、
座っていたり、
木を見上げて立ち尽くしていたり。

毎日それを遠巻きに見守っているのは、
IQとドクロ。

ノバリは博士が死んだ時、
ボロボロになりながら墓から離れなくて、
無理矢理みんなで引き離したようなものだったが、
今回は二人とも穏やかに、
時折何かを感じるのか、
ふとリンゴの木を見て微笑んだりと、
不思議と心配はしなかった。


「なんだか本当にニッカいなくなったんだな…
って思う時が少ないのは何でだろーね、
オレだけ?」


ドクロは、IQに同意を求める。


「んー確かになぁ…
どこかにいるような気がするけど、
家にまだニッカの雰囲気が残ってるから、
そう感じてるだけなんじゃねーのかなぁ」


「一緒に住んでただけはあるね」


ドクロはIQの肩を軽く叩いて少し笑った。


「あぁ、淋しくて仕方ねぇーよ」


談笑しながらIQドクロはビスケットの庭へ足を向けた。



そして100日目の今日。
リンゴの木に変化が起きた。

ノバリとポルカは、
リンゴの木にポツンと成った小さな緑色の熟していないリンゴの実を見つけた。


「あれ?もうリンゴの季節は終わったのに…
何で実が??」


はてと首をかしげるノバリ。


「でもなんだか嬉しい気持ちがしてきたよ!」


そわそわと頬をピンク色に染めながらポルカは言った。

それからというもの、
リンゴの実は次第に大きくなっていき、
ついには重みで木からもげ、
地面に落ちてしまった。

しかし実は、
へその緒のようにヘタの部分だけが長く伸びて木から栄養をもらっているようだった。


そしてまた100日が過ぎたある昼前、
リンゴに異変が起こり始めたので、
ノバリはみんなを呼びに走った。


「来たきた!!ノバリ!
早く早く!リンゴが光出したんだよ!」


みんなを連れて帰ってきたノバリに急げ急げとせかすポルカ。
ノバリはドクロの手を離さず思いっきり引っ張りながら走る。

あとからゆっくりついてきたビスケット、IQ、ショコラ。


「林檎の実が巨大化したんでしょ?それって本当に林檎なの?
林檎っていえるの?」


リンゴを一度も見ていないショコラはIQに尋ねる。


「あぁ、確かにリンゴだ。
あれは何個分だろうなぁ…」


タバコの煙をふーっと吹きながら考えるIQに、
答え出ないな。
とショコラは思考を切り換えた。


「林檎から何かが産まれるのかもしれませんね」


ビスケットが穏やかに突拍子もないことを言うもんだから、
ショコラもIQも驚いた。


「ニッカが産まれてきたりして」


冗談で言ったショコラだったが、
言葉にすると、
変にすんなり受け入れられた気になって、
なんだか苦笑い。


「ささ、早く産まれる所を見に行きましょう」


そう言ってビスケットが二人を急かす。


みんな信じていたいんだ。
ニッカにまた会えることを。
ビスケットの綺麗で優しい緑の庭で、
いつものようにみんなが集まって、
ケンカしたり、
笑ったり。
そしてそこにはニッカの笑顔があることを。


「見てみて!リンゴが!」


ポルカが興奮しリンゴに近づく、
あまりに綺麗な光を放つもんだから、
ついついドクロも足が動く。


「おい、ポルカ逹、
あんまり近づくなよ。
なにが起こるか分かんないから」


遅れてきたショコラが、
初めて見たリンゴに驚きながらも、
冷静に言った。

リンゴは果物という感じではなく、
ガラスで出来ているように表面が周りの風景を映し出している。

その間も淡くドクンドクンと、
心臓の鼓動のようにリンゴの中から白い光がリズムを刻んで外側の赤い皮に反射している。

そして目を開けていられないほどの強い光が、
JEMMY全体を包んだ。

うすら目を開いたノバリ。
目がチカチカしてよく見えない。
でも、ちゃんと…見えた。

卵から生まれたヒヨコのように、
リンゴから生まれたニッカの姿を。


「ニッカー!!!」


ポルカが一目散に駆け出した。
あとを追うノバリとドクロ。
立ち尽くすビスケットとIQとショコラ。

ニッカは死んだ時のまま、
13才の女の子の姿でリンゴの中から現れた。
黒い髪に白い肌。
ただあの海のように青い瞳は、
右目はドクロからもらった灰色の瞳、
左目はさっき生まれた時に入っていたガラスのようなリンゴの赤。
胸と胸の間にリンゴの印がついていた。


「ねぇ!本当にニッカなの?!」


ノバリがニッカの白く綺麗な背中にに触れた。
まだ横たわっていたニッカは、
上半身を起こし、
目線を上げる。
するとニカッと眩しく笑いこう言った。


「みんな、ただいま」


そしてみんなが笑顔になった。


「おかえりなさい」


青く光溢れる空の下
とても大切なものは
みんなのところへ
幸せとともに
もどってきた。



 back 

TOP
×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -