笑顔



家を囲むピンクとブルーのレンガを積み重ねた奇抜な塀を抜け、
キコリーズの家へ到着した一行は、
ショコラの研究室へ初めて足を踏み入れた。

ショコラは博士がおこなっていた研究の、
あとを継いで核の研究をしていた。

研究室には薬品棚やフラスコに入った得たいの知れない物質などが、
部屋中のそこかしこに配置されており、
少し暗い気味の悪い雰囲気が漂っている。


「ドクロ、そこの診察台にニッカを寝かせて」


ショコラの指差した方に、
ノバリの見覚えのある物が映った。


「ショコラ…これ」


使いふるされた金属製の診察台。
ドクロが背負っていたニッカを下ろすと、
ギィと短く金属の鳴く音がする。
まるで悲鳴のよう。


「それ、博士が使ってたやつ…
よくみたら他にもいっぱい…」


「ああ、博士が死んだあとオレが研究するから、
ビスケットに博士の使ってたやつ全部運んでもらったんだよ」


そうだったの…と呟いたノバリは、
そこかしこに感じる博士の面影を嬉しく感じ、
泣きそうになった。


「さぁ、始めよう!!
ノバリだけ残ってあとは外で待ってて。
気が散って失敗したらイヤだから」


退散命令を受けたドクロとポルカ。
見るからにしょぼんとしたポルカは、
ニッカに頑張ってと告げドクロとともに部屋を後にした。


「初めにニッカの目玉を取り出す、
その時にノバリの綿毛を目に入れる。
最後にドクロの目玉をはめ込んで終了。
ノバリ、血を覚悟してよ。
倒れられたらかなわないから」


ノバリが大きく頷いたのを合図に、
大手術が始まった。


3時間程経っただろうか…。
ドクロの体に異変が起こった。
体が小さく、
いつもの姿に戻ったのである。


「今、ニッカの目に入ったんだね。
ドクロ本当に魔力なくしちゃったね」


ポルカがそう言い、
ちょっと待っててと、
その場から走って立ち去った。
戻ってきたポルカの手には、
洋服が。


「服がダボダボだから、
ボクの貸しておいてあげる」


それを受け取ったドクロは、
早速着替えを済ませる。


「おーピッタリ!」


ペアルックになるのでは…!と思っていたドクロだったが、
ポルカのいつもの服ではなかったので安心した。

そんなやり取りの後、
廊下に椅子を持ってきて座っていたポルカが質問した。


「ねードクロ。
なんでニッカに力をあげようと思ったの?」


「別に、理由なんて考えなかったから。
ただ…誰かが悲しむのは見たくなかったから…か?」


語尾に疑問符をつけてポルカに答えを返す。


「そーいえば、
お前らって魔法使えたっけ?
悪魔に仕えてたんだろ?」


いきなり魔法の話をされたので、
きょとんとしたポルカだったが、
笑いながら答えた。


「少しなら使えるけど??
それがどうしたの??」


「オルガって魔女が殺す為にオレを探してるらしい。
もしここのみんなが危なくなりそうになったら、
守ってくれ」


柄にもない弱気な発言にポルカは気色悪いなと思いながらも、


「えー!あんな強力な魔法使いにケンカ売ったの?!
そんなのドクロしかしないよー」


ケタケタと笑うポルカに、
ぱしっと頭を一つ叩いたドクロ。


「ポルカはソイツ知ってんの?」


「少しならねー。
ボクら出来が悪くて最初に仕えた悪魔にすぐに契約破棄されちゃってね。
オルガに仕えてたんだよ。
オルガってね、
魔法使うよりも魔女がかけた呪いを解く技術がすごくてね。
それに興味津々だったから、
冴えないコウモリ二匹で、
一生懸命頼み込んでね。
仕官させてもらってたの。
でも魔女の攻撃にヤられちゃってすぐここに来たんだー」


言葉の出ないドクロ。


「オルガがドクロを憎んでるからって、
ボクらそんなこと全然これっぽっちも関係ないからね」


「まぁ、そういうことだ。
お前らも気を付けろよ」


ドクロ優しー!!とポルカが叫び声を上げたと同時に、
研究室の扉が開いた。


「どうだった!!」

ポルカがショコラに駆け寄った。


しん、とした空気がどんよりと重さを増した。


「移植も綿毛もうまくいったんだけど…
拒絶反応がひどくて…
今、亡くなったよ」


真っ青になったポルカは、
その場から動けなくなってしまった。
そんなポルカの肩を慰めるように叩くドクロが、


「最期の姿、しっかり見てやろう」


小さく頷いたポルカの背を押して、
ショコラに案内されるように中へ入っていった。

診察台のあった奥の部屋に通されて、
白いベッドに寝ているニッカを見つけた。
ベッドサイドの椅子に腰掛けニッカを眺めていたノバリが、
ポルカたちの方を向く。


「ニッカね…最期に笑って…
ありがとうって」


穏やかに笑うノバリの瞳に、
涙はなかった。
それを見たポルカは、
引き寄せられるようにベッドへ近づき、
ニッカを見た。


「本当だ…幸せそうに…笑ってるね」


泣きながら笑うポルカ。
綺麗な滴がとめどなく頬をつたって流れ落ちた。



その夜、
ニッカはIQの提案により、
ノバリの庭のリンゴの木の下に埋葬された。


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