チャック


所変わってビスケットの庭では。


今まで静かに話を聞いていた朗朗は気怠るそうに頭をかきながら、


「あーあ。しんみりしちゃってさー。
やだやだ、死ぬやつは死んじゃうんだって、
それがニッカの運命なわけよ」


朗朗の容赦ない声が庭に響いた。


「よくゆーよ。運命に従わなかった奴が」


誰も朗朗に言葉を返さない沈黙を破ったのは、
ノバリと一緒に博士の墓から帰って来たドクロだった。


「おー。お姫さま連れてご帰還ですか?王子様」

ニヤリと笑い嫌味を言う朗朗を無視した大人なドクロ。
…とはいかなかった。

ドォンと凄まじい音を立て朗朗の横を通り過ぎたのは黒い炎の塊だった。


「魔法使ってたら、すーぐ小さい子どもの姿に戻っちゃうよー。
目玉を肌身離さず持ってたから、
漏れた力が蓄積されて、
魔力が少しだけ溜まって使えるようになってるだけなんだからさー
せっかく元に戻ったのにー。
もったいなーい!」


「次は当てるぞ」


怒りを灯したドクロの鋭い瞳が朗朗を射ぬく。
さも気にせず朗朗は涼しい顔でニヤリと笑った。


「わざわざのご忠告、ありがとうございます。
そのお礼に俺もとっておきの情報を教えてあげましょーか?」


「わー!!ビスケットの庭を壊しちゃダメだよぉー!!」


ノバリがドクロの腰にまとわりつく。


「朗朗も意地悪言わないでよね!」


プンスカ怒り出したノバリの頭にポンポンと優しく手を置くドクロに安心したノバリ。


「ノバリ、危ないからこっちにおいで」


少し離れた所にいるみんなの場所からノバリを呼ぶビスケットに、
ドクロは目線をやり、
ノバリにあっちに行くように促した。
ノバリがビスケットの所へついたのを確認して、
朗朗と向き合う。


「耳にいれてて損はない情報よ」


朗朗はドクロの方に距離をつめる。


「しょーもない話しだったら、
素手でぶっ飛ばすからな」


「俺、痛いの嫌いだから殴らないでよね〜。
そうそう、近くにオルガが来てるらしいよー」


オルガと名前を聞いてドクロは、
ポカンとした表情で朗朗を見た。

それに気づいた朗朗。


「もしかして忘れちゃった??ドクロのせいで、
全ての魔女から宣戦布告され総攻撃された、
魔女のオルガだよ。
きっと殺したいほどドクロを憎んでるだろうねぇ」


ドクロははて、
と考えを巡らせたが思い当たるふしが全くない。


「オルガなんて知らない。
なんでオレが恨まれなきゃいけねーんだよ」


朗朗もあれ?っといった表情で、
ちょっと待ってと考え始めた。


「あ、ドクロたち、
そーいえば面識ないか!
オルガね、魔女に復讐するために、
魔女を殲滅させようと悪魔と手を組んだわけ、
いよいよ戦争が始まるって矢先にドクロが魔王を封印しちゃったから、
悪魔の協力は得られず魔女にも裏切り者とバレ、
一人で魔女と戦かわないといけなくなっちゃったのよ」


話しを聞いたドクロだが腑に落ちないことばかり。


「オレ全く関係ないじゃん。
オルガってやつの逆恨みだろ。
迷惑以外のなにものでもねーよ」


「そのオルガはそうは思ってないってことよー。
オルガは結局、
魔女全滅させたから結果はオーライだったんだけど。
まぁ、ドクロがここにいるって知ったらJEMMYに乗り込んでくる。
面白くなりそーだわ」


嬉々とする朗朗に殺意を感じながらも、
ドクロは言った。


「やっぱりどー考えてもオレ悪くないわ。
来たらお引き取り願うだけだ」


「対面の時は見に来るからねー」


そう言い残し朗朗は黒い煙に紛れて消えて行った。
相変わらず嫌なヤローだ。
朗朗が消えたので、
ドクロはノバリたちの所へ戻る。
するとニッカが話し始めた。


「ノバリ…私ね、
さっき白旗さんに会ったよ。
白旗さんの持ってた病気の薬を貰ったの。
あと、町のことビスケットから聞いたよ」


ノバリにぽつりぽつりと今あったことを話すニッカは、
少し悲しそうでノバリの心がちくりと痛む。


「そう…博士に…」


ぼくも会いたかったなって、
涙目で笑うノバリに今度はニッカの心が痛くなる。


「ノバリが綿毛から生まれたのも、
ビスケットから聞いたよ」


ノバリはスゴいねってニッカが笑う。

自分のおなかをさすさすと触りながらノバリは、


「この話も…聞いた…?」


胸の下からおへそ辺りまである、
銀色のチャックをなでた。

きょとんとするニッカは、
聞いてないよと言う代わりに、
首を横に振った。


「そう…」


ふうっと息を吐いたノバリは、
みんなの方を向いた。
それが合図だったかのように、
みんなが周りに集まった。
そしてノバリがぽつりぽつりと話し出す。


「ぼくのね、おなかの中には綿毛が詰まってるんだよ。
この綿毛は不思議な魔法の綿毛でね、
これを分け与えたら、寿命がうんと伸びるの。
もうビックリするくらいにね。
それでね、
博士が死んじゃってからぼくすごく落ち込んじゃって……。
ぼくは死ぬことはない体だから、
他のみんなもいつか死でいっちゃうと思ったら…
こわくなって…みんなに綿毛をあげて、
みんなの寿命を延ばしたの。
ぼくのわがままで…」


ノバリはチャックをジジジと下ろす。
中にあるキラキラと虹色に光る綿毛を見せてくれた。
とても綺麗で思わず魅入ってしまうほど。


「ノバリの我が儘じゃないよ、
オレ逹がそれを望んだんだよ。
まだ気にしてたの?」


ショコラがノバリの頭をなでた。


「そーだよ。
ボクもみんなとずっと一緒にいたいもん、ねっ!」


ポルカはニコニコとノバリの肩を叩く。


「オレも後悔なんてしてねーよ」


煙草をふかしながらIQが笑う。

ニッカはドクロを見上げた。
視線に気付いたドクロはニッカに、


「オレはここに来た時に、
ノバリに助けられたって言ったろ?
その時にケガを治す為に、
ノバリが綿毛をくれたんだよ。
記憶全然ないけどな」


「瀕死の重傷だったって言ってたね」

ああ、ノバリはドクロの命の恩人なんだ。
ノバリやドクロ種族や生い立ち、
過ごしてきた時間もバラバラなJEMMのみんなが、
目に見えない何かで結ばれてるように、
どこか強い絆を感じたのは、
これが理由だったのかとニッカは心の中で思った。


「博士はね、
JEMMYの生き返りの核の研究をしながら、
ぼくの綿毛の研究もしてたの。
博士にぼくの綿毛使ってっておねがいしたんだけど…
病気には効果はないんだよって断られちゃって…」

しゅんと項垂れるノバリに、
なんと声かけてよいか分からないニッカ。


「これがニッカに言ってなかった…
ぼくの秘密」


これで秘密はもうないよと、
ノバリが目を細めて笑うから、
話してくれてありがとうって、
心からのお礼を伝えた。

みんなが死なない体を持ち、
いくつもの死を見ながら永遠に生きる。
出来れば私も、
みんなと一緒にいつまでも…。



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