愛しい存在


そのころノバリは、
博士にあげる為に持っていた純白のユリの花束が、
走る勢いで散ってしまわぬように注意しながら、
大事にそれを胸に抱え必死に博士の墓へ急いでいた。

こわくてたまらないこの考えを
走るスピードとともに全部ふり払えたら、
どんなによいか。

ドクロがいなくなっちゃうなんて、
絶対に嫌だ…

はじめて出逢った
あの赤い赤い悪魔は
僕だけの大事な宝物。

整理のつきそうもない気持ちのまま、
ぼくは博士のお墓の前に着いてしまった。

こんな顔、
博士がみたらきっと心配しちゃうかな…

さっきニッカに聞いた、


「ドクロが大きくなってる」

その言葉を受けた時、
頭のなかにうずまいた感情は、きっと絶望。

ドクロが大きく…ううん
元の姿に戻ったのなら、
きっと失くしてしまってた大きな力も戻っちゃったんだな、そう思った。

そしたらドクロはJEMMYを出て行ってしまうかもしれない。

ぼくはもう、
そばにいたニッカとIQと普通におしゃべりできる自信がなくなって、
急いで博士のお墓へ走った。

後ろから聞こえた気がした、
ぼくを呼ぶニッカの声も
聞こえないふりをした。


「ねぇ、博士。
ぼくドクロがいなくなっちゃうなんて
絶対にイヤだよ」

お墓に話し掛けても返事なんてないとわかってるのに、
声を掛けずにはいられなかった。

そして流すはずもなかった涙が、
後から後から流れてきてしまって、
嗚咽が止められなくなってしまう。


「うっ、うぇっ、。
ド、ックロッ、、、クロ」

声も抑えられなくて、
博士のお墓の前に突っ立ったまんま空に向かってわんわん泣いた。


「なんで泣いてんの?ノバリ」

突然降ってきのはとても優しい声だった。
でもそれはいつも聞き慣れたものとは、
少しだけ違う低い声。
でもぼくの大好きな声。

そしてぼくの背中を包むように
触れたのは、大きな大きな包帯だらけの両腕。

突然のことにビックリして、
首だけで振り向いたぼくの目線にいたのは、
あの日出逢った、悪魔。

あの日と違っていたのは、赤くないことだけ。


「ね……なんで?なんでいるの?」
ぼくは涙でぐしょぐしょの顔のまま、ドクロに問う。


「あっ質問返し?
オレはIQからノバリが一人で墓に行ったって聞いたから、
あとを追いかけてきたの。
にしてもひっどい顔。
んで、ノバリはどーしたの?」

ドクロは困ったように笑い、ぼくを抱き締めたまま言った。


「ドクロ、元に戻ったの??
こっから出て行っちゃうの…?」


ぼくは心の中に詰まってた不安を、
ドクロに告げた。


「なに言ってんの。
オレがノバリから離れるわけないじゃん。
そんな有り得ない事で泣いてたの?」

コクリとひとつ頷いたノバリは、
そのまま顔を前に戻して伏せてしまった。
そんなノバリの姿に、
愛されてるんだなってしみじみ感じれば、
温かくて気持ちの良いものが、
身体中に染み入ってくる気がした。
これ、幸せな気分って言うのかも。

抱きしめていたノバリへの緩い拘束を解き、
オレの方へ向かせてノバリの視線に合わせて屈む。


「いつまでも何があっても、
オレはノバリの傍から離れないよ」

決意の篭る瞳で伝えれば、
俯いていたノバリが顔をあげた。

真っ赤になった大きな瞳が揺れる。
少し痛々しいけれどオレの為にこうなったと思うと、
堪らなく嬉しい。
オレ、少し狂ってるのかなぁ。


「どこにも行かないでね…」

ノバリの眉毛が少し下がりぎみ、
まだ少し不安な証拠。


「昔、約束したでしょ。
オレは約束は破らないよ」

ノバリは、
そうだね。
と短く返事をして、
オレのくちびるにキスをした。


「んなッ!」

あまりに突然!
完全なる不意打ちにさすがのオレも赤面せざるおえなかった。

目の前のノバリはというと、
先ほどの顔とは打って変わって、
いつもの満面の笑みでオレを見ていた。




 back 

TOP
×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -