錠剤


私はその場に立ち尽くし、
白旗さんの消えた先をただただ眺めていた。


「おいニッカ、なにしてんだ?」

声をかけられ振り向くとIQと朗朗が2人、
違和感なく仲良さそうに立っていた。
IQが忘れ物をして来た道を戻っていたら、
朗朗と出会って一緒にアトリエに向かう途中だったらしい。

なんて話しながら私の近くに来たIQは、
私の悪い顔色を見て驚き目を見開いた。


「おい!どうした!
どっか悪いんじゃ…」

そう言いIQは私の右肩を軽く揺さぶった。

本当に軽くだったのに、
さっきの発作で気力と体力が回復していない私は、
それだけの揺れで足元から力が抜けてしまい、
地面にペタリと尻餅をついてしまった。

その瞬間、
博士から貰った4錠の薬が握った手の中からこぼれ落ちた。


「おっと。これはー」

ひょいと錠剤を拾った朗朗は、
面白いモノを見つけたというような顔をする。
人差し指と親指で小さな錠剤をつまみIQに見せた。


「それ…博士の薬か…?
朗朗、ニッカをビスケットの庭に連れて行くぞ!
いつものヤツやれ」

IQは地面にへたりこんでいるニッカを両手で抱き上げた。


「ハーイハイハイ。
他のヤツには使わないけど、
今日は特別ね。ニッカ、目つぶって」

私は朗朗から言われた通りに固く両目を閉じた。
一瞬顔や身体に冷たい風を感じる。
その時は、とても嫌な空気の中にいた気がした。


「目ぇー開けていいよ」

朗朗の声が聞こえ閉じていた瞳を恐る恐る開けた。

するとそこは、ビスケットの庭だった。

さっきまで違う場所にいたのに!
不思議なことが起こりオロオロ辺りを見回していたら、


「ニッカー!どしたの?
朗朗の黒い煙りから出てくるなんて…って
顔色悪ぅ!」

タタっと喋りながらポルカが近づいて来た。
こっちこっちとニッカの右手をとり、
いつものテーブルに引っ張られ、
空いてるベンチにニッカを座らせた。

その間IQはビスケットとショコラに今あった事を伝えた。


「…これは間違いなく博士の薬ですね…」

IQから錠剤を見せられ、
それを確認していたビスケットが頷く。


「やっぱりか。この前ニッカが博士に会ったって言ってたけど、
薬を貰った何て話はしてなかったしな」

IQがうーんと唸る。


「何も知らない奴らが集まって
顔突き合わせてても埒開かないから、
直接ニッカに聞こうよ。
その方が早い」

淡々とショコラが提案する。


「まぁ、それが1番早いわな。
さてどーなることやら」

朗朗がニヤリと嫌な微笑みを浮かべる。

ショコラはこっそりと、
あぁヤダヤダコイツ!と心の底で思っていた。

解決策はニッカに直接話を聞く事でまとまり、
4人はニッカのいるベンチに移動した。


「ねぇニッカ。この薬はどうしたの?」

ビスケットがニッカの横に腰掛けた。


「…あっとこれは、あの…」

ニッカは考えていた。
博士から貰った薬。

この説明をすると自分の発作が起こったことも話さなければならない。

みんなに自分の身体のことで心配はかけたくない。
でも、ごまかす言葉も見当たらない。
嘘なんて絶対につきたくない。
ニッカの言葉を待ち、
みんながニッカを見つめている。

ニッカは腹をくくり話す決意を決めた。


「私、心臓に病気があって…
さっきノバリを追いかけてたら、
いきなり発作が始まって…
そしたら白旗さんが現れて薬を飲ませてくれたの…
すぐ白旗さんは、
お墓に呼ばれてるって言って消えたんだけど、
消える前に持ってた残りの薬を全部くれたの」


「博士は他に何か言ってなかったか?」

IQがニッカを真剣に見つめて問う。


「あっとは…命日の日に実体化するって。
命日に近づくとお墓から追い出されちゃうらしくて、
だから初めて会った時はゴーストだったって」

IQは、そっか。とだけ言って黙りこんだ。


「ねぇ、待ってよ。
その薬、博士のでしょ?
だったらニッカは博士と同じ病気なの…?
ねぇ、嘘でしょ?
ねぇ、死なないよね…?
ニッカ?」

ポルカが哀しそうに眉をひそめる。


「ポルカ、ニッカがここに来た時から分かってただろ?」

ショコラが諭すようにポルカに話しかける

「そうだけど…でも…
博士と同じ病気なんて言ってなかったし…」

両目に涙をためながらショコラを見る。


「私、白旗さんに聞きました。
JEMMYへは死に近い者しか入れないって。
自分の身体の寿命は自分で分かってるつもり…です。
だから最期の時までここにいさせてください」

ニッカは力強い目線で笑いながら言った。


「ニッカの核が異常に強くて特別で、
その上奇跡が起これば生き返ることもあるさ」

ショコラが言った。

核とは何のことだろうか…?


「…それ限りなく無理ってことじゃん」

しょんぼりとポルカはうなだれる。


「ねっねぇ!核って何!?
何の話をしてるの…?」

堪らずニッカは大声を出した。
とても重要な話をしてることは理解出来たからだ。
ショコラ、ポルカを始めIQと朗朗がビスケットに目線を向けた。

ビスケットは溜息をついて、
すぅーっと息を吸って、
隣に座っているニッカをしっかりと見つめて言った。


「もう内緒にしてても仕方ないですね。
JEMMYがどんな町なのかを、
お話しましょう」


私は少し、怖くなった。
だけれど怖がってばかりはいられない。
決意を持った眼差しでビスケットの言葉を待った。



 back 

TOP
×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -