ユリの花束


―ドクロが道端でIQに会う少し前の話―


ニッカはビスケットの庭から飛び出して、
IQのアトリエを目指した。



ドクロには隠しておきたい秘密が、
たくさんあるのは私にもよく分かる。

別に拗ねているわけじゃない。
ただこれ以上ドクロを困らせたくなかっただけのこと。

あそこにいたら色々と聞いてしまいそうだったから。


「みんなそれぞれ秘密がある。
…それは私も同じなのかなぁ…」

私は走るスピードを緩め、
歩きながら心の中で呟いた。

少し下を向いて歩いていたら、
前方から元気な声がして顔を上げる。


「こ〜んな気持ちのいい〜
おそらの日に下向いてたら、
お日様に怒られちゃうよ〜」

トトトと駆けよってきたノバリは、
そういうやいなや、
むぎゅーむぎゅーと私を抱きしめる。

見かけのわりに力の強い腕に捕まった後、
ノバリの胸に埋まっていた顔を、
やっとの思いで出しノバリの肩越しに空を見上げた。


「本当だね。
前向いて歩かないと叱られちゃうね」

空はどこまでも水色で太陽は遠くまで光を届ける。
下を向いていた自分をもったいなく感じた。

いきなりガッっと両肩を持たれたかと思うと、
そのまま後ろに両肩を押され反動で頭がグワンと揺れる。

縦に揺らいだ視線を正面に合わせ、
目が合ったノバリは眩しいほどに輝く瞳で、


「でっしょ〜!」

と得意げな声で言った。

その顔はキラキラした満面の笑み、
まるで私にはノバリが太陽のように感じた。


「あれニッカ、
ビスケットん所にいたんじゃないのー?」

ノバリの来た方向から歩いてきた朗朗の右手には、
白い大きな百合の花束。

こんなにも花が似合わない人もいるんだな、
と心の底から思っていた時。


「ニッカよ。
心の声は聞こえずとも、
顔に出ちゃうってーことは、
よぉーくあるんだよー」

朗朗はニジリニジリと歩み寄ってくる。

朗朗の目がどっしりと据わっていたので、
口に出さなかったのに、
見事に読まれてしまった心にドキリとした。


「…ご、ごめんなさい!
ねぇ、その花は?」

素直に謝り、なぜ似合わない花を持ってるのか聞いてみた。

「謝ったってことは、
どーせ悪いこと考えてたんだろー。
あぁ、
この百合?
IQへのプレゼント?と思いきや…
違うんだなぁー。
博士の墓に供える花なのよ」

意外な人物からの思ってもみなかった名前に、
少しビックリした。


「朗朗も白旗さんの事知ってるの?」

私は朗朗を1番よく知らない。


「博士とは、昔からの知り合い。
魔女と悪魔の大戦争が始まる時に会ったんだっけかなー?」


あぁ。
そうだ、みんなは私達人間の寿命じゃないんだった。
何百年も生きてるんだから、
知り合いでも何の不思議もない。

でも昔は悪魔と魔女が存在してて、
白旗さんは魔女で朗朗は悪魔。

それを踏まえて考えても友達同士とは思えない。

でも敵に花なんて持って来ないだろうし…。
脳をフル回転させても答えは出そうになかったので、
考えるのをあきらた。


「知り合いなんですか…
あれ?IQは一緒じゃないんですか?」

私がキコリーズとビスケットの庭に来る時は、
IQと朗朗とノバリが一緒だったはずなのに、
そこにはIQの姿だけが見当たらない。


「IQはねー
お墓には行かないって途中で別れて、
ビスケットん所に行ったんだよー
あっ!ニッカ!ドクロまだ庭にいた?」

立ち話から墓の方向に、
ゆっくり3人で歩き始めた時、
ノバリから尋ねられる。


「……あっ!
言うの忘れてた!
ドクロね、身体がおっきくなってて。
みんなは、元の姿に戻ったって言ってたけど…。
髪もすごく伸びてて、
ビスケットに切ってもらってるよ」


それを言った瞬間、
私の話を遮るかのように、
大きな大きな強い風が吹いた。

百合の花が散ってしまいそうな風の勢いに、
私は慌てて朗朗の持つ花束を確認する。

あぁ散ってはいないみたい。
胸を撫で下ろした時、
ボソリとノバリが呟いた。


「ドクロは、帰っちゃうのかな…?」

その小さ過ぎる声は、
私の耳には届かなかった。

「ん?ノバリどうしたの?大丈夫?」

横にいたノバリの様子が少しおかしいのに気づいて声をかける。


「…ぼく?大丈夫だよ〜」

また変わらずの笑顔を見せたノバリに、
安心したのもつかの間。


「朗朗!博士のお墓、
ぼく一人で行ってくる!」

そういうと朗朗の持っていた百合の花束を奪うように取りあげ、
私達を振り返ること無くノバリはタタタタと走っていった。


「行っちまったな…
俺は元に戻ったドクロ見たいから行くけど、
ニッカはどうするー?」

ノバリの突然の行動に少しビックリしつつも、
特に気にする様子の無い朗朗は、
花束を持っていた手が空いたので、
ポケットからタバコを取りだし火をつけた。


「私は、お墓に行ってみる」

あい分かったと朗朗は頷き、
ドクロを見たら2人が墓に行ったって、
声掛けておくわーと言いながら、
歩いて行った。

朗朗はいつも魔法を使って黒い煙りに包まれて、消えるのに、
煙草の煙りにつつまれながら青空の下を歩いている悪魔が、
なんだか不思議な絵を見ている気がして。

その背中から穏やかな、でも寂しそうな色が見えた。

そして私は、すでに小さくなったノバリの背中を追いかけた。




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