ドクロ


走り出した数分後には、
汗は止まらないし、息はきれぎれ。
完全に体力を失ってヘトリ。


「…はぁっはぁー
やっ…ぱり…
いきなり
デカくなったからなぁ…
体力が全然ついてこない」

走る気などもう更々無く、道脇に生えた大きな木の陰で休憩しようと、よろりと移動し、ずるずると木に寄り掛かるように腰を落ち着ける。

ふぅ、と短い溜息をついた時。
行こうとしていた方向からIQが歩いて来るのが見えたので手を振った。


「IQ〜!
ニッカは一緒じゃないの?」

声でオレの存在に気づいたIQが、吸っていた煙草を口から離し、険しい顔でこっちを見る。


「お前…ドクロか?」

近づいて来ながらも、未だ怪訝な表情を崩さない。
そしてオレの目の前にやって来て、座ってるオレに目線を合わせながら、マジマジと見つめられる。


「あっ、ドクロだ」

やっと納得したようで、力の入っていた表情はすぐに間抜けな顔に変わった。


「はぁー!元に戻ったのか!
ノバリには会ったか?
懐かしむだろうなぁ。
あ…っとノバリは朗朗と花をあげに
博士の墓に行ったんだったな
ニッカには会ってないぞ」

IQが優しく笑い、それと同時に周りの草木も風に揺れた気がして、心に温かい緑が広がった。

そんな穏やかな気分になったなんて、
口が裂けても絶対に言わないつもりだから。


「あーっそう、
墓に行ったのか…
じゃあオレも行ってくる」

いつもより少しぶっきらぼうに言って。

オレは木陰から立ち上がり、レイニーデイズの墓を目指す事にした。


「じゃあ、またあとでな」

そう言うとIQは、また煙草を口の先に収め、煙りをまといながら右手を軽く上げ立ち去った。


「あぁ、またな」

オレは振り向くことなく、IQが来た方向へと足を進めた。
目的地が決まれば、もう走らずとも問題ない。
そう考えると、さっきまで重たくてしょうがなかった両足が、少し軽くなり、
IQにちょこっとだけ感謝した。


約500年ぶりに背が伸びたということは、
足の長さも増したわけで、そのたった一歩は、今まででは想像出来ないほどに大きなモノに変わるんだな、と。

下を向いて、自分の一歩一歩を見ながら進んでいた。

長身のオレが自分の足を真剣に見ながら歩いている姿は、端から見れば、かなりおかしな光景だろうと思う。

内心、元の姿に戻ったことに1番驚いているのは、
オレ自身だった。

昔持っていた悪魔の力を取り戻し、
元の姿に戻りたい、と思う反面、
小さいままの姿でノバリの横にずっといれればいい。

2つの想いが交互にせめぎあいをしていた日々。

オレは朗朗と違い、過去の怒りや後悔を割り切って
捨てられる程に、
強くはなかった。

前にニッカと話をした時、

『もし、魔力が戻ったらどうする?』

とニッカに質問され姿はどうであれ、
力を失くしたままでも良いんだ。
ノバリの傍にいれればそれが幸せだ。

やっと長年のモヤモヤした気分に答えが出た気がした。

ニッカは、ノバリの心に入り込み過ぎると心配していたが、
入られているのはオレも同じか…。

最近ひしひしと感じる想い。

オレだけじゃない、
IQやビスケット、キコリーズ特にポルカ。
レイニーデイズまでゴーストになって出てくる始末。

オレは空を見上げて、また溜息をついた。


「まったく、
朗朗は本当にろくなことしねぇな…」

青空に呟いた。
その言葉は空にまでは届かず、途中に吹いた風に巻き上げられてしまった。


「今日は風が強い…」

ビスケットに切ってもらった前髪がばらばらと風に遊ばれる。

その髪をかきあげながら、風に煽られたのは前髪だけでは無いような気がして、
途端に居心地が悪くなったオレは、
少し速度を上げて、先を急ぐことにした。

早くノバリとニッカに逢いたくて、
しょうがない。

この心模様は一体どうしたことか…。

オレは本日、
何度目か分からない、
溜息をはいた。


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