ノバリ人形


オレはドクロ。
右の眼球が無いから、いつも眼帯してて、
つやつやサラサラのボブより少し短めの黒髪。
人間の耳の位置に猫の耳、
尻尾は黒くて長いのが生えてて、
身長は156cmと小さめの男の子。

なのだ…が!

犬小屋を人が一人住めるサイズに、
そのままでかくしたような家の部屋の中。
一面に敷き詰めた藁の真ん中で、
いつも通り目を覚ました。


「…あっれー…元に戻ってる」

背が突然伸びてしまい部屋が、
とてつも無く狭く感じる。
顎を越すまで伸びた前髪が視界を遮り、
後ろ髪もかなり伸びてるようで、
立ち上がろうとして自分の左手で髪を引っ張ってしまった。


「いだだだだ」

また座り込み胡座をかいて考えた。
側においてあったノバリ人形を、
ひょいと掴んだら自然と言葉がもれた。


「原因はコレかぁ…
取り合えずビスケットに髪切ってもらおう
にしても服が無い…か」

昨日まで156cmの身長が、
いきなり180cmになってるんだ、そりゃ着る服もない。

少し思案したオレは指をパチンと鳴らした。

すると朗朗が魔法を使った時のような黒い煙りが部屋に立ち込めオレを包む。
あぁ、懐かしい感覚だ。
煙りが退いた後には体に合ったサイズの服をまとっていた。


「やっぱり」

思った通りだ。そう呟き、
自分の家を出てビスケットの庭を目指した。
道の途中に拾った枝をかんざし代わりに使い邪魔な髪をまとめる。

ビスケットの庭につくと、
ニッカとビスケット、珍しくキコリーズの2人もいた。
オレに気付いたニッカが言った。


「…あなた誰ですか?」

不審者を見るような疑う目つきでオレを睨む。
誰かも分からなくなったのか!昨日も会っただろ!と心の中で悪態。

「…その眼帯は…もしかしてドクロ?」

ポルカがオレの顔を指さして言った。


「そうだよ。指ささないでくれる?
みんなオレの顔忘れちゃったの?ひどくね?」

するとニッカとポルカが目を輝かせて喋り出す。

「どーしたの?
声まで大人になっちゃって!
てか背もビスケットより大きくなってる!
もしかして成長期?!」

いーなーと羨望の眼差しでオレを見つめるポルカ。

成長期で24cmも一晩で伸びるかよ!と心の中で突っ込む。
するとオレたちのやりとりを静かに聞いてた2人が声を投げてきた。


「あらら。
その姿のドクロは久しぶりですね。
ここに来た時以来」

ビスケットの緩やかな敬語が耳に心地よく響く。


「そうだね。
本当、来た1日後には小さくなってたもんね
…本当の姿になったって事は
右の目玉も元に戻ったの?」

ショコラは、いつも冷静に考え結論を出し的確な部分を突いてくる。
まぁ、そんなスマートな部分は嫌いじゃない。


「んにゃ、目玉は戻ってない。
ほれこのとおり」

そう言って手に持っていたノバリ人形の腹のチャックを開けた。


「…んげぇ…」

ニッカが興味津々に、
それを覗き込み気持ち悪そうに手を口に押さえた。


「気持ち悪るがるなら見るなよ。
輝かしくもオレの目玉」

そう言うとニッカは、


「全然輝いてないよ。
ただの灰色の目玉だよ…」

本当、可愛くない。
オレはそう思い、いつもするギリギリまで左目を細めニッカを睨んだ。


「あっ、それよりビスケット。
髪切ってくれない?もぅ長くてうっとうしくて」

いいですよと言ってビスケットが家の中へハサミを取りに行った。

いつものテーブル席にはショコラが座っていたので隣りに腰を下ろした。
肩肘を突いてこちらを見ながらショコラが話かけてくる。


「でもこの姿で動いてるのは初めて見るね。
ノバリが連れて来た時は血だらけで
気ぃ失ってたし」

また懐かしい話を持ち出してくる、
と自然と溜息も出てくるものだ。


「じゃあドクロは、
ここに来た時は大人の姿だったの?」

オレの後ろに回り、
ポルカとニッカはオレの束ねた髪をいじったり耳を触ったり。


「あぁ。これがオレの本当の姿だよ」

きっと触るなって怒っても2人は懲りずに髪と耳をいじるだろうと、
先が見えたので何も言わずに質問にだけ答えた。


「おまたせしました
形はどうしましょうかね?」

ハサミを取りに行ってたビスケットが戻って来てオレの後ろに立つ。


「そうだね。
前と横はいつも通りで、
後ろは結ぶから腰くらいまで残して切って」

そう言って瞳を閉じた。


「了解しました。
さぁ、
2人とも危ないから下がってくださいね」

ビスケットがやんわりニッカとポルカに側を離れるように促す。


一面緑の庭が暖かい風に乗って揺れる音がする。
やっぱりここの空気は昔のオレがいた場所では、
絶対に感じられなかった幸せを実感させてくれる。
心地よく髪を切られていた時ニッカがオレに質問する。


「ねぇ、ドクロこの前、
目玉は無くしたって言ってたのに
人形に入れてたんでしょ、
何で教えてくれなかったの?」

ニッカはオレの座っている席の前に陣取り、身をずぃっと乗り出す。
オレは一瞬薄めを開け、また閉じた。


「オレは秘密多き人物だから」

その瞬間のニッカは、きっと苦虫を潰したような顔をしてるんだろう。
見なくても分かる。
だから目を閉じたままで、

「ぶっさいく」

呟いたオレに、ニッカは呆れ返る。


「…いいもん」

図星だったのか、機嫌をそこねた声のニッカ。
そのやりとりを見ていたビスケットが、
事態の緩和を試みる。


「ドクロも意地悪言わないの。
教えてあげればいいでしょう?」

ハサミの動きを止めずに言うビスケットの声は、
少し困っているようだった。

目線を青空に移したあと、
ふぅ、と少し長い溜息をはいて、オレはニッカに話してやることにした。


「オレの魔力の源は眼球。
あった場所から外れても眼球がある限り、
力自体は失われない。
でも、それが体にはまってないと力が使えないんだよ。」

オレは、まだ切られていない長い前髪をあげ、
右に付けてる眼帯を外してみせた。
ニッカの視線はオレの目に釘付けになる。
ポルカはキラキラした瞳でオレを見る。

「うわぁ」

オレの瞼は上下に黒い糸が縫い付けられていて。
上瞼に[seal]と刻印が施されている。


「そのsealって何?」

ニッカはここぞとばかりに聞いてくる。


「封印って意味」

素直に答えるオレが珍しいのかニッカが少し笑顔になる。

「すごいね…
離れてるのに嫌な感じがする」

ポルカが両手で顔を押さえ指の隙間から覗く。
封印の魔力が伝わるのか、
ポルカの顔色が少し悪くなっている

オレはまた眼帯を付けて、
前髪を切ってもらう為にビスケットの方に向き直る。


「使えないなら無いと同じでしょ。
だから無くしたって言ったの」

ふうんと相槌を打つニッカ。
きっと次は何で封印されたのか?
と聞いてくると思っていたら、


「私、IQとノバリの所に行ってくる」

そういうやいなやベンチから勢いよく立ち上がり、
タタタと走って行ってしまった。


「ドクロが教えてあげないから
ニッカ拗ねてるんじゃないのー?」

ポルカがドクロに、むぅと口を尖らせる。


「その目の封印のこと言ったって、
ニッカに町の秘密は知られないよ
なにが秘密多き人物だ」

隣のショコラがぷぷっと馬鹿にしたように笑う。

「…うっさいよ
そういえばノバリは?」

こういう時は話題を変えるに限る。


「IQの家に朗朗が来てて、
IQの品物とノバリの絵を見てるんだって」

あぁ、朗朗からの被害が及ばないように、キコリーズはニッカとここにいたのか。
ショコラは自分の家の敷地からはあまり出ないので、不思議に思っていた。
なるほど、これで合点がいった。


「はい出来ましたよ」

ビスケットは首に巻かれていた布を取り、
最後に両肩の髪の毛を掃いてくれた。


「ビスケット、
髪結ぶ紐貸してくれない?」

いいですよ。とビスケットは黒色の紐をエプロンのポケットから出して渡してくれた。
それを使い後ろにおだんごを作り、そのすき間から長く髪を垂らす。

昔と何も変わらない姿。

だけどオレ自身は大きく変わった。
ノバリのおかげで全てが良い方に進んだんだ。
もう昔のオレじゃない。


「ちょっといってくる」

そうみんなに告げオレはニッカを追いかけた。


 back 

TOP
×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -