掴みかけたしっぽ


月明かりの下で闇夜に想いを叫ぶノバリの後ろ姿を見て、
ノバリのことや博士のこと、
秘密のこと何も知らない自分が、
まるで蚊帳の外にいるようで少しだけ悲しくなった。

その後ろ姿に駆け寄り、
私とドクロもノバリ同様に夜空に向かって叫んだ。


「「ノバリのことが、
だいすきだー!」」

ドクロと打ち合わせもしていないのに、発した言葉が見事にハモる。


「おいニッカ、
ノバリの事が好きなのはオレなの」

私の方に顔を向けギロンと睨みつけられた。


「ノバリが好きなのは、
ドクロだけじゃないもん」

口を尖らせて反論する。
それを見たノバリはクスクス笑った。
私とドクロは笑うノバリを見て、

やっぱりノバリは笑っていなくちゃいけない。
そう思った。


「あー!みてみて!」

ノバリが真ん丸の月の少し横を指さした。
それにつられて、私達も月を見上げる。

無数の流れ星が空を駆ける。
それは本当に綺麗で、綺麗で。


「暗闇が泣いてるみたいだ」

ボソリとドクロが無感情に呟いた。


「私は…空が怒って、
地面に星を叩きつけてるみたいな気がする」

まだ流れ続ける星達を掴めないかと、
私は空へと両手を伸ばす。


「だいぶんネガティブ発想だな。
星は掴めそう?」

ドクロが、なおも空に手を伸ばす私に言葉を返す。


「うん。掴めそうな気がするよ」

星に集中していたのでドクロを見ずに言った。


「うん。ニッカなら星も捕まえられるよー」

ノバリは私の前に腰を下ろし首を回し私を見上げた。
ドクロは「どっこいしょ」って言いながら、
ノバリの横に座った。


「ねぇ、
たくさんの星はどこに行くのかな…?」

ノバリはドクロを覗き込みながら問いかける。


「さぁ…星の墓場にでも落ちていくんじゃないの?」

「星の墓場っ」とノバリは両目を輝かせる。


「星がたくさんあってキレイなんだろうねー」

無数に輝く星達を想像しているノバリとは反対に、
光を失いただの石になった星の残骸の山を想像してしまい、
変に気分が落ちた私は星を捕まえようと、
伸ばしていた両手を下ろした。


「やめちゃうの?」

それを見たノバリは無邪気に笑った。


星を掴まえるのを諦め、
その場に座りかけた時、
聞き慣れた声がビスケットの庭に響いた。


「コラ!!
こんな時間まで帰ってこねーから心配すんだろ!!」

片手にランプを持ったIQが、
怒りながらズンズンと大股で近づいて来た。


「あっ!あいきゅーだ〜」

のんきに手を振るノバリ。


「…ご、ごめんなさい」

口から火を噴きそうな勢いでニッカを怒るIQに、
ドクロは本当に心配してるんだと感心した。
まるで父親。と心の中でニヤニヤした。


「お前らもお前らだ!
こんな遅くまでニッカ連れて!
何やってんのっ」

朗朗に言い寄られた時くらいしか怒らないIQ。
今まで怒られたことなんてないノバリ。
愛情故に怒られたことがないニッカ。

三者三様の表情を見て、
心の底から面白いと傍観していたドクロが口を開いた。


「ニッカが博士のゴーストに会ったんだよ」

その場がしんっと静まり返った。


「…博士に…か?」

そう言いながらニッカを見るIQ。
ニッカはコクンと頷いた。


「そうか。まぁ何があったかは明日詳しく聞くから。
今日はもう解散。帰ろう」

IQによる解散宣言で、
お月見会は終わりを迎えた。


「んじゃ、また明日な。ドクロ」

家の方向が違うドクロとは、ここでお別れ。


「あぁ、また明日な」

そう言ってノバリ人形の尻尾を、
ちょいっとひっぱり明かりを付けて夜道を進んだ。

ノバリ人形の小さな光が森の暗闇に消えたのを確認して、
IQとノバリと私は歩き出した。
私はノバリと手を繋ぎ先頭を歩くIQの後ろをついて行く。


「遅くなる時は、
1回俺に知らせてからまた遊びにいくよーに!」

前を向いたままIQが声をかける。


「「はーい。」」

私達は元気よく返事をした。


「ったく、分かってんのかねぇ」

IQの呆れた声が返って来る。

いつも慣れた家までの道も、
暗闇の中だと少し怖く感じる。

数分後、ノバリを家の前まで送り、
私とIQは自分達の家を目指す。

2人きりの帰り道。
私は気になっていたことを口にした。

「白はた…あっ、
博士は何で亡くなったの?」

後ろ姿のIQの肩が、
少しビクリと跳ねたのが見えた。
だがそのまま歩調を変えずに、


「…病気だ」

歩きながらポツリと一言。
その後はもう、何も言わなかった。

だから私もそれ以上は、
聞かなかった。

家に着いてビスケットから貰ったサンドイッチを食べようと、
テーブルの上で黄色のハンカチの包みを開いた。

「リンゴ…ノバリにあげるの忘れてた」

サンドイッチと一緒に真っ赤なリンゴが入ってるのを見て、
今日なんの為にノバリを探してたのか。
ため息混じりに可笑さが込み上げる。


「ほら」

そう言い、紅茶の入ったカップを私の前に置いてくれたIQ。


「ありがとう
…今日は心配かけてごめんなさい」

軽く頭を下げて、謝った。


「もういいよ。でも心配はかけんなよ」

そう言ったIQは少し困った優しい笑顔だった。
つられて私も笑顔になる。


「いただきます」

挨拶してやっと夕食を食べた。
IQは私が食べるのをタバコを吸いながら、ぼんやり見てた。


私が食べ終わった後、
IQは「おやすみ」と言って、
隣りのアトリエに戻って行った。
私はひとりベッドの中、
睡魔に襲われながら、
ぼんやりした頭で考えていた。

みんながこの町に来た理由を。

白旗さんは経緯は分からないが病気で亡くなっている。

IQはチワワの小さい体で走り続けた。
きっと町に着いた頃にはボロボロだったんだろう。

ポルカとショコラは魔女に攻撃されて町に落ちた。
昔、魔女と悪魔は戦争をしてたと聞いた、
ならばポルカとショコラも無事では済まない程のダメージを受けていたと思う。

ドクロは瀕死の重傷。

ビスケットとノバリは分からないけど…
想像した中での共通点。
多分それは

「死に近づいていたこと」

頭の中でピントが合った感覚に、
奇妙な安心と不安を感じずにはいれなかった。

けれど眠気に負けてしまった私は、
瞼を閉じて今日の日の幸せを大切に胸の中に閉まった。


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