三人の夜


泣いているニッカを見つけたノバリとドクロは大慌て。
急いでニッカに近寄りおろおろと、
触ろうか触るまいか両手を上げたり下ろしたり。


「どっ!どっかケガしたの?!痛いの?!」

ノバリは心配で珍しく声を荒立てる。


「なに泣いてんだよ。
言わなきゃ分からないよ」

ドクロは心配を通り越し少し苛々した口調。
ようやくニッカは口を開く。


「…私、なんで泣いてるのかな?
哀しいような…淋しいような…
あの人どこに行っちゃったんだろう…」

それを聞いたドクロは一呼吸おいて言った。


「あーぁ。
自分で分からないんなら世話ないわ。
別に怪我してる訳じゃないんだな?」

その問いに『うん』と首を縦に振るニッカ。
顔を上げた彼女はまだ心ここにあらずといったところか。

怪我をしてないと分かった途端ドクロの苛々は消え、
いつもの彼に戻る。
それでもノバリは、まだ心配らしくシュンと眉毛と耳が下がっていた。


「もう暗くなったから、
ビスケットの家で話しようよ
こっから1番近いし」

ドクロの提案にノバリも賛成する。

もう泣いていないニッカの手を繋ぎ、
すっかり暗くなってしまった道をノバリは少し早足でビスケットの家に向かう。

2人の少し後ろをついて行くドクロは、
いつも持っているノバリ人形の尻尾を軽くひっぱった。

するとノバリ人形の両目からビカっと光が点灯。
暗い道を照らした。


「そんな使い方があるんだね。
その人形すごい!それは…魔法?」

とニッカはドクロに問い掛けた。


「内緒」

ドクロはニヤリと笑って質問には答えてくれなかった。
彼に『魔法』という言葉は使ってはいけないのかな?
そんな事を思った。

しばらく歩いてビスケットの家に着き、
鍵のかかっていない玄関から勝手にリビングに入る。

5つあるリビングのランプに火を点けてまわり、ようやく部屋は、いつもの明るさを取り戻す。


「いいの?勝手に入って」

ニッカは不法侵入では?と、
ノバリとドクロに小さい声で聞く。


「いいの、気にしなくて。
そこ座っときなよ」

ドクロはニッカに言いながら、
ノバリと奥にあるキッチンへと消えた。

言われた通りに、
大きな長方形のテーブルに用意されている6脚の中から、
自分に1番近い椅子に腰を下ろした。

頬杖をついてさっきあった事を、
ぼんやり考えてみる。


「あの白旗さんは、
ここの元住人で。
でも今は違う所に住んでいて。
みんなを知っていて。
私に会いにきて。
……消えた。」

そうあの人は消えたのだ。
闇に紛れるように。
悪魔なのか?

ここは不思議の町JEMMY。
いちいち気にする事ではないのかもしれない。

うーっと悩んでいたニッカは、
ふと棚にたくさん置いてある写真立てに視線を止める。

初めてビスケットの家に来た時、
今いる住人以外の人物が写ってる写真を見かけた事があった。

今日会った白旗さんも、
もしかしたら写っているかもしれないと、
ニッカは椅子から離れ、
その写真立ての前に移動する。


「あ…ほんとに…いた」

写真を見たニッカは言葉をなくした。
そこに写っていたのは、
紛れも無く、さっき会った白旗さんだった。


「ニッカ〜。ココア入れたよー」

ノバリがお盆にココアの入った3つカップをのせ、
キッチンからリビングに戻ってきた。

椅子に座っているものと思ったニッカが、
そこにおらずノバリは焦る。


「あれ?あれれ?ニッカ?!」


「あっちにいるよ」

ドクロが棚の側で写真に見入っているニッカを指さした。

ニッカがいると分かり、
ほっとしたノバリはココアをテーブルに置く。

カシャっとカップの音に勢いよく振り返ったニッカは、
少し興奮しながら言った。


「ねぇ!この人だれ?
この白旗持ってる人!
私さっきノバリたち捜してる時に会ったの!」


「会ったって…本当か?ニッカ。」

ドクロがニッカに問う。


「本当だよ!
夕方ノバリとドクロ捜すの手伝ってあげるって言われて、
でも…あの場所で消えちゃったの。
すごく哀しそうな顔して…フッていなくなっちゃったの」

ドクロは「そうか」と眉間にしわを寄せ、
小さく呟く。

ノバリは目を見開いたまま硬直していた。
様子がおかしいことに気づいたドクロが、
ノバリの顔をのぞき込み、
放心状態の彼の頬を軽くぺちぺち叩く。


「おーいノバリ、大丈夫か?」

ノバリの異変に気付いたニッカも素早く駆け寄った。


「ねぇ…ノバリどうしちゃったの?」

数秒後、ノバリはゆっくりと瞬きを繰り返す。
だんだん両目の焦点が合い、
やっと放心状態から抜け出たようだ。


「博士がいたの?
ぼくには会いに来てくれないのに…?」

涙がこぼれそうなのを、しっかり我慢しながらノバリは、
今まで見たこともない哀しい表情で笑った。

不謹慎にもその笑顔は、
何よりも綺麗だと、ドクロは思った。

ポンポンとノバリの頭を撫でながらドクロが、


「まぁ、ニッカの話を聞こうか。
2人とも座ろ」

ドクロはニッカに椅子に座るように目で合図を送る。
そして肩を抱きながら、ノバリを椅子に座らせた。


「んで。ニッカは白旗持ったやつに会ったんだな。
そして消えた。
奴は何か言ってたか?」

椅子には座らずにドクロは、
ニッカとノバリの顔が見える位置に立っていた。

ニッカは答える。

「えっと。名前はレイニー・デイズって名乗って、
ここのみんなを知ってて、
今は違う所に住んでるけど、
この町の元住人だって言ってた」

それを聞いたドクロは右手の人差し指と親指で顎を触りながら、


「そうか…。
率直に言うとニッカが会ったのはゴーストだ。
レイニー・デイズはもう何百年も前に死んでる」

その言葉を聞いて驚いたのはニッカだ。

ドクロからの思いもよらぬ一言にニッカは食ってかかる。


「たしかに触ったりはして確認はしてないけど…
でもでも!
朗朗みたいに魔法で姿を消しただけかもしれないでしょ?」

夕方会った人物はゴーストだと言われても納得出来ない様子のニッカ。


「オレ達がいた場所はレイニー・デイズの墓の前だ。
断言できる。奴は死んでる」


ニッカは、ドクロとノバリがいた小さい丘を思い出した。
そういえば、小さな石碑があった気がする。


「レイニー・デイズは魔女だったんだ。
奴の強い思念が町のそこかしこに散らばってるんだろう。
バラバラだった思念が何かの偶然で1カ所に集まって、
ニッカの前に具現化されて生きてるように見えたんだろうな」

身振り手振りを交えてドクロが説明してくれた。
突然のように夕陽を背に現れたことや、
途中で感じた違和感もあって、
少し納得出来るような、出来ないような。


「あとね、消える前の最後に
ノバリは泣いてないかな?って哀しそうな顔で聞かれたの。
だから泣いてないですよ!って答えたら、
安心したみたいで…少し笑ってた」


それを聞いたノバリが、
おもむろに椅子から立ちあがり、
そのまま走って外に出て行ってしまった。

何事かと慌ててノバリの後を追うニッカとドクロ。
ノバリは裏庭の真ん中で突然、
夜空に向かって叫んだ。


「もうぼく泣いてないよー!!
博士がいなくて哀しいのは変わらないけど
ぼくはもう泣かないからー!!」

…だから…ぼくにも会いにきてほしい…。

最後の言葉はノバリだけにしか聞こえない
小さな声だった。

その後ろ姿を切ない顔で見つめるドクロ。
ニッカは何も言えずに、
ただドクロの横に立っている事しか出来なかった。

レイニー・デイズに心の多くを傾けているノバリ。

ノバリのことが大好きなドクロ。

まだまだ知らない事実が多過ぎるニッカ。

こんな3人が
無数の星が瞬く空の下に集まった、
少し切ない夜のお話。




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