白旗


太陽が沈みかけオレンジの暖かな色と、
ぼんやりとした光がJEMMYを包む頃。

ニッカはノバリを探していた。

ビスケットから夕飯のサンドイッチと林檎を貰ったので、
林檎が好物のノバリにあげようと思ったからだ。


「いないなぁ…どこだろ…」

ニッカは今日、
昼からずっとIQの手伝いをしていて、
IQとビスケット以外には会っていなかった。

それでもノバリやドクロが行きそうな所は、
全て当たったつもりだったのだが。

なぜか見つからない。

途方にくれIQのアトリエに帰ろうかと思い、
来た道を引き返そうとした時、
声をかけられた。


「おや。そんな悲しい顔をして、
何か大事なモノをなくしたのかい?」


聞いたことのない声に驚きニッカは前を見た。

すると、
夕陽の逆光で顔はよく分からないが、
背中に大きな旗を持った人物が立っていた。

ニッカは警戒しつつも、
まだ会ったことのないJEMMYの住人かと思い、
少し離れた場所にいる旗の人物に声をかけた。


「あ…の、私ニッカって言います。
IQの所でお世話になってて…」

すると旗の人物はニッカの声を遮り、
少しずつ近づきながら喋り始める。


「初めまして、ニッカ。
それで君は何を無くしたのかい?
…こんな私でよければ…
役に立つかは些か疑問だけども、
探しモノのお手伝いをしようか?」


旗をなびかせながら、
ひょたひょた頼りなさげに歩く姿に、
なんとも親近感がわいた。


「あの…大丈夫です。
この林檎をあげようとノバリを捜してただけで…
見つからないから、
もう帰ろうと思ってた所なんです…」

そう言い、
お手伝いは必要ないと最後まで告げようとした時、


「あ!さっき役に立つか分からないと言ったけどね、
あっ…の、あれは言葉のあやで…
多分役に立てるとは思うんだよ?
でも、もしだよ?
もし君の役に立てなかったら…
あぁぁーっ!!
私は昔から何の役にも立てなかった!!」


頭を抱えて地べたに、
ひざまづいたこの人は、
何だか後ろ向きな思想だな…と
心の中で思うニッカ。

どうしようかと悩んだが、
道の真ん中でうずくまっている人をほっとくことは
さすがに出来ない。


「あの、
やっぱり1人で捜すのも心細いので、
一緒に捜してくれませんか?」


ニッカがそう言うと、
その人はガバっと起き上がった。


「本当かい!?
私は昔から思想がネガティブだと言われててね…
私はそんなつもりもないんだが…」


「あっあの!日も暮れますし、
早く捜しに行きませんか?」


ほって置いたら、
ひたすらネガティブ思想を語り出しそうだったので、
ニッカは旗の人物に動くように促した。


「あぁ、すまない」

そう言うと旗をユラユラ揺らしながら歩き始めた。
近くで見ると、
その旗はオレンジでは無く真っ白だった。


「お名前はなんていうんですか?
呼び名を知らないと白旗さんとしか呼べなくて…」

呼び名がないと不便…とニッカは問い掛けた後、
そう言えば初めて来た時、
IQに言われたなと懐かしくなり少し笑った。

それを不思議に思った白旗がニッカに言った。

「どうしたんだい?嬉しそうな顔をして」

ニッカは顔に出てた!?と少し赤くなる。


「私はここに来るまでは、
名前を持ってなかったんです。
それでIQが不便だからって、
名前をつけてくれたんです。
ニカって笑い顔が似合うようにって」

横に並んで歩いていた2人。
白旗を背負う人は随分背が高いので、
ニッカは顔が見えるように上を見上げる。

その人は前を向いていたが、
その横顔はIQの話を聞いて、
とても嬉しそうだった。


「あの名前は…。
あなたはIQを知ってるんですか?」


「あぁ。私の名前はレイニーデイズ。
白旗さんでいいよ。
IQとは…昔からの友達だよ」

レイニーデイズと名乗った人物は、
IQの昔からの友達…
なんだか分からないけど、
変な違和感を感じた。

ニッカはIQが、
こんな事を言ってたな、
と思い出した。

『この町には、
6人しか住んでいない』

ニッカは指折り数えてみる。

ノバリ
ドクロ
IQ
ビスケット
ショコラ
ポルカ

そして私。
朗朗は、ここに住んでいないから、カウントしない。

じゃあ…この白旗さんは、
誰だろう。

難しい顔して指折り数えてたニッカを、
不思議に思ったレイニーデイズは、
ニッカに問い掛けた。

「何か分からないことでも
あったかい?」

その声にバッと反応したニッカは、
レイニーデイズを見上げ、

「あのIQから、
この町には6人しかいないって
教えてもらってるんです。
あなたは…この町の住人?」


きょとんとしたあとレイニーデイズは、
笑った。


「あはは。
ニッカは私が人さらいだと思ってるのかい?
違うよちがう。
私は…そうだね。
元住人かな。
今は違う所に住んでるんだ。
今日は君に会いに来たんだよ」

レイニーデイズはニッカの歩幅に合わせて、
ゆっくり歩いていた。
とても優しい雰囲気で溢れたレイニーデイズ。

ニッカは驚きを隠せないままでいた。


「連れ戻しに来たんですか…?
私また奴隷に戻るんですか…?」

ニッカは立ち止まった。


「違うよ。
私はただ、
ノバリ達から話を聞いてね。
君に会いたかったんだよ。
本当にただそれだけだよ」


俯いたニッカの前に膝をついたレイニーデイズ。
ニッカはチラリと顔をあげた。


「ノバリ達から…?」

ニッカは力なく言いレイニーデイズの目を見る。

「あぁ、ノバリやビスケットに、
ポルカにショコラみんなから話を聞いてるよ。
とても良い子だってね
不安にさせて悪かった。
さぁノバリを捜そうか」

そう笑ったレイニーデイズは
少しビスケットに似ていた。

ドクロは、
私の話をしなかったんだな。
と内心ニッカは苦笑いした。

そして、
また2人は夕陽傾く空の下を歩きだす。


「あぁ、そういえば、
ショコラとポルカは仲良くしてるかな?」

私の話は、
みんなから聞いているのに、
こんな事を聞くということは、
本人達には会ってないのかな?

レイニーデイズの質問に疑問を浮かべるニッカ。

ふと、
レイニーデイズが立ち止まる。


「ノバリはこの上の丘にいるよ。
私が案内出来るのは、
ここまで。
さようならだよニッカ」

レイニーデイズは、
ニッカの背中を軽く押した。

ニッカはなんだか、
なんだか分からないけど、
もっと話がしたいと心から思った。


「あの、ポルカとショコラは、
喧嘩とかしないで仲良くしてますよ!」


レイニーデイズは少しずつ離れていく。

そして、
とても悲しそうに微笑みながら言った。


「あとひとつ…
ノバリは…もう
泣いてないかな……?」


その言葉を最後にレイニーデイズは、
日が殆ど落ち暗くなった森に消えてしまった。

一瞬のことで呆然としていたニッカは、
我に返り、とっさに追いかけた。

だがそこには木が生えているだけだった。

狐につままれた感じとは、
こんな風なのかと思いながら丘を登ると、
少し開けた場所に、

本当にノバリとドクロがいた。

トボトボ歩いて来たニッカを見つけた、
ノバリとドクロはビックリしながら、
口を揃えて言った。


「ニッカ!なんで泣いてるの?!」

ニッカは自分が泣いていたことにも、
気づかないでいた。


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