青空の散髪店


庭の真ん中に置かれたのは、
椅子というよりはただの切り株だった。


「そこ座って。
そんなボサボサの髪だったら前も見えないんじゃない?」


ショコラは丸太に座った私の後ろに立ち、
いつの間にか持っていた櫛で髪を優しく
とかしながら言った。

確かに私の後ろ髪は胸を越し、
前髪は片目を隠してしまうほど伸び放題。


「もう何年も切ってないから…」

切れる状況でも無かったし、今着てる服も
一枚布で出来たボロボロの汚いワンピースだった。


「そういえば奴隷だって言ってたよね」

ポルカは私の前に座り両手に顎を乗せている。
出会った時にも思ったけど、
ポルカの瞳はキラキラして、なんだか私には眩しいくらい。


「…はい。色々な場所を転々としてて、朗朗に拾われたんです」


「そっかー。
でもここはとっても良い所だよ。
みんな優しいしね…多分」


ポルカはニッコリ笑う。


「さーて。やりますか」

それを合図にショコラの散髪が始まった。

髪の毛を切ってもらいながら、
不思議に思ってたことを聞いてみた。


「あの、なんで2人は背中に翼があるんですか?
私のいた所には、
その…そういう感じの人はいなかったから」


カシャ…
ショコラの持っていたハサミの動きが止まる。
目の前のポルカは、私ごしにショコラを見て、頷き喋りはじめた。


「ニッカちゃんは昔、悪魔と魔女が地上にいたの、知ってる?」

悪魔…と魔女?

いきなり何の話しかと思ったが、
ポルカの目はいたって真剣。


「…昔話に聞いたことがあるくらいで、
地上の権利をめぐって悪魔と魔女が戦って、魔女が負けたって」


「そう。ボクたちは、
悪魔に仕えてた…ん?違う違う。
悪魔に仕えるはずだったコウモリなんだよ」


「…んー…ん?」

いきなりの話に私はどう反応していいのか
まったく分からない。

そんな時
ショコラから


「ほら、背筋のばして顎引いて」

猫背になっていた私は
注意を受けてしまった。


「コ…コウモリですか…?」

見かけは背中から翼が生えてる以外は
人の姿だ。
コウモリだから翼が生えてるってことかな?
なんて顎を引き背筋を正しながらグチャグチャ考えてたら、
ポルカが続きを話し始めた。


「当時はボクら、この姿じゃなくてね。
見かけはホントただのコウモリだったんだよ。
ボクらね、一族の中でも出来が良くなくて。
いつまで経っても悪魔から使ってもらえなかったんだ。」

アハハと笑うポルカ。

呆然と話しを聞く私。

無言で髪を切るショコラ。


「その話はだいぶ昔の話ですよね?
…じゃあポルカとショコラは
どのくらい生きてるの?」


「あれ、ショコラ。
何年だったかな? 」


答えを求めるポルカの視線はショコラへと向かう。
私もつられて後ろを振り返る。

するとショコラは、
ハサミを持ってない方の
5本の指をヒラヒラさせた。


「あぁ…そうだね
500年くらいかな」

そうだそうだとポルカは頷く。
ショコラの手は年数を表していたようだ。


「まぁ、だいたいその位じゃないかな
オレもハッキリとは覚えてないけど」

ショコラは言いながら、
まだ後ろを向いていた私の頭をグィっと押さえ、
「コラ、うごくな」と前を向かされてしまった。

前を向いたらポルカと目が合った。

私はそれを逸らし目をあっちやこっちに泳がせる。

500年生きてる?コウモリの寿命って
どのくらいだったっけ?

でも魔女や悪魔がいた時代だから
私の知ってるコウモリとはまったく違うのかも…
ぐるぐる思考を回しているとポルカはまた話しだした。


「んである日、
やーっとボクら2人を使ってくれる悪魔が決まって地上に行ったの。
初めての仕事で気合い入ってたんだけどね。
いきなり魔女から攻撃されて、
この町に落ちちゃったんだ」


それがこの町に来た理由。


「そうなんですか…」

まだ13年しか生きていない私からすれば、
到底信じられないこれこそがお伽話みたいだ。


「まぁ、世の中色々あるってことかな」

さらりとショコラは一言でまとめた。
これ以上詳しいことは教えてくれなさそうな雰囲気だった。

ここは
見たこともない風貌ばかりの住人。
私は町に足を踏み入れる前に見えたような気がした赤く光る線を思いだす。

…そういえばあの線は目の錯覚かと忘れていたけど、
今思うと、あれも何か町の不思議に関係してるのかも。

でもまさか何百年も生きてるなんて!

長生きしてるのはポルカとショコラだけではない気がした。

そもそも人ではなくて2人が、
コウモリだった事に驚きを隠せない。

人であろうと
人でなかろうと
ショコラやポルカは…
この町のみんなは、

優しいと思う。

私はそれだけで 十分だと。
そう素直に思えた。


「はい。おしまい」

できたよ。
とショコラは私の肩に残る髪の毛をはたきながら言った。


「なんだか、頭が軽くなりました」

ワシャワシャと私は自分の頭を触った。


「服はビスケットからもらってきなよ。
可愛い服ちょーだいっていえばくれるよ」

私は自分のボロボロのワンピースを眺めた。


「んじゃ、また今度ね」

ポルカは
よいしょっと私の前から立ち上がり、
金色の鈴のついた斧を肩に乗せた。


「オレらキコリなんだよ」

ショコラが教えてくれる。

ビスケットはレストラン。
IQは大工さん。
ノバリやドクロも仕事を持っているのかな…。
あとでIQに聞いてみよう。


「ありがとうございました。
じゃあビスケットの所に行きますね」


「あぁ、また顔出しに来いよ」

ショコラは丸太の切り株を庭の隅にしまいながら言った。


「はい、また来ます」

私は2人に頭を下げて庭をあとにした。
切ってもらった髪が心の中をも、
少しだけ軽くしてくれたみたいだった。

そして私は
ビスケットの家を目指して歩いた。





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