ディニーが壊した食器の数。 もう数えきれない。 それでディニーが怪我した数。17回。 騒音で隣人のアルバートに怒られた数。 何回だったろうか。 分からなくなる程だ。 それだけディニーが不安に追いかけられてる事だけは、分かる。
物を壊す行為でディニーが安心出来るなら、サンディーは怒ったりしない。 でも堪らなく、怖くなるのだ。
ディニーは、昨日サンディーが買ってきたばかりのガラスのコップを手に持っていた。
意を決したようで、それを思いきり振り上げ、腕が頂点に達した瞬間、ディニーはコップをテーブルに叩きつけた。
「ガチャン」と音を立て破壊されたコップに原形は無く、無惨な姿で散らばっている。 テーブルの上では、キラキラと鋭い破片が光っていた。
ディニーはおもむろに、自分の手の平をガラスの破片に向かい振り降ろした。
だが痛みはなく、柔らかな感触にディニーは、閉じていた目を開く。
映ったのはサンディーの姿。 ディニーの手の下には、サンディーの手の甲があった。
ディニーはみるみる青ざめてく。 そんなディニーにサンディーは、いつものようにヘラヘラ笑いかける。
「ディニーがね、どんな気分かなって思って」
ディニーはサンディーから手をどけたが、茫然と立って動けないまま。 サンディーの手の平からは、血がダラダラと流れる。
サンディーはポケットからハンカチを出し、血が流れる手に巻き言った。
「ほら、何してるの?食器壊そ」
サンディーは食器棚からコップやら皿を出し、手当たり次第に床に投げ付けた。
「ガッシャン」
「ガッシャン」
二人でありったけの食器を壊した。 そのあとはアルバートが部屋に来て、ひとしきり怒られた。
次の日の朝食はサンドイッチを買いに行き、公園で食べた。
そして二人の手には、痛々しい包帯が仲良く巻かれていた。
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