朝、テレビからは今日の運勢が流れてて。俺のラッキーアイテムは
【傘】
その後つづいた天気予報は午後から
『雨』
とのこと。
雨と傘か…。今日良い事あるんじゃないか?

と少しワクワクしたのを、
…ふと思い出した。

大学の授業も終わりバイト先へ歩いて向かっている途中。
さっきから雲行きが怪しかったが、
天気予報通りの
『雨』が一粒顔に落ちた。
傘を差すには、まだ早い。ふと通りかかった公園に目を向けた。


俺の心臓が一瞬
止まった。
気がした。


誰もいない公園のブランコのそばに、

君がいた。

落ちてくる雨に気づいて、空を見ていた。
俺は、傘を持ってるのを思い出した時には、
君に向かって走り出してた。

君はいきなりやって来た俺に驚いて、噛み付きそうな瞳で威嚇する。

使ってと俺は傘を差しだした。


「いらない」
と短い言葉。

「いいから」
と俺。

少し激しくなった雨に濡れる二人。
俺は傘を開いて、君が濡れないように傾ける。


「あんたがぬれてるよ。
自分のかさ何だから、自分にさせよ。
僕、風邪なんてひかないから」


―あっ…この子。男の子か―


「いいよ。俺家近くだから、使いなって」

口から嘘が出た。

しかめっ面の君は

「かさ。かえさねーからね」

そう言って、君は俺の手から傘を取って走って行った。

公園の入口に、黒い傘を差した人が、あの子に話しかけている。

傘の隙間から、ちらりと見えた顔は。

―彼女かな…?―


何も始まるわけなんて無いのに。

少し何かを期待してる自分を嫌悪して、
俺はまだ距離のあるバイト先へと走ることにした。

でも、ラッキーアイテムって
信じてみるもんだな。
なんて思ったのも事実。


僕は雨の日から数日後の公園で、
あのかさ男を発見した。
よりによって僕のお気に入りのブランコに座ってる。

僕は奴に近づいて、
「かさ、返さないよ」
と最初に伝えた。

「うん、あれは君にあげたんだから。いいんだ。傘は気にしないで」


和らいだ表情で僕を見て言う。


「……あっそ」


「隣のブランコ空いてるから、座れば?」

ブランコに乗りに来たんじゃないの?ちらりと隣を見て、僕を促す。

僕はブランコに腰を下ろした。

軽くこぐ度に、キィと音が鳴る。
そして少し長い沈黙。

「俺はね、ノエル・バーネット。ノエルって呼んで」


名前なんて聞いてないのに。と思いながら僕は無言を続ける。


「そこの大学に通っててね、授業終わったらルマン通りの、角曲がった所にあるレストランでバイトしてるんだ。」

頭の中で地図を描いていたら、店の絵が出て来た。


「モノクロリア?」

「そうそこそこ」


「オリヴァーが、あそこのラザニアは美味しいって。いつも言ってる」


「そっか。でも俺は料理担当じゃなくて、ウェイターなんだ。
でもシェフに伝えとくよ。オリヴァーさんに有難うって、伝えといてよ」


店を誉められて嬉しかったのか、ニコニコして機嫌が良さそうだ。


「やだよ。自分で伝えなよ。
オリヴァーよくここに来るから、今度あんたが来た時に、オリヴァーが誰か教えるから」

僕が発した言葉に、彼はなぜかびっくりしたように、目を見開いてる。


「それって、約束?」

いきなり小さい声で、ぼそりと呟くから、今の言葉が聞こえない。

「……今、なんて?」

聞き返したが彼は、

「……や。何でもないんだ。
あっ!…やばい。
俺今からライブハウスに行かなきゃ。忘れてた…。
…んじゃ、また。
今日君に会えて良かった」

腕時計を見た途端、彼は慌ててブランコから降りた。
そして走って公園からいなくなった。

ブランコがキィ…キィ…と音を出して揺れている。


僕はブランコが止まるまで、
ぼんやりそれを眺めてた。

次に会ったら、僕の名前を教えないとなぁ。
あぁそうだ。
今日の夕飯はラザニアがいい。
サンディーに伝えなきゃ。

いてもたってもいられずに、
僕も急いで公園を後にした。

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