太陽が眠り、私達はアパートの屋上にいる。
今日は久々に月が見える夜。

PM10:30


「そろそろ来るかなぁ」


ディニーは屋上の危険防止の為のフェンスに腰掛けて、
月を見ながら言った。

「もうすぐ来ると思うけどなぁ。」

私もフェンスによじ登り、ディニーとは少し間隔を置いて座る。

「サンディー落ちないでよ」

「うん。気をつける」

本当に落ちないでよと念を押される。
ここはアパートの屋上。
落ちたらひとたまりもない。
ディニーが心配してくれるので、少し可笑しくなった。

月のまわりに星がいくつか瞬いて、つい見惚れてしまう。

私達は、月の出る夜にしか会えない友人を待っていた。

そろそろ来る時間のはず。

『やぁー。こんばんわ』

友人は夜の暗闇に紛れて突然やって来た。

『ちょっと待たせちゃったかな?』

「んーん。大丈夫」

ディニーは無表情のままに答える。

現れたのは、月夜のフレイム。

私達の目の前でフワフワと月明かりの中、宙に浮いている奇妙な友人は。

魔法使いだ。

黒い猫の耳に鼻。
右は金色の猫眼。
左は紅い眼帯をしていて見えない。
薄く笑う口元からは、2本の牙が見え隠れし、
黒いマントで夜に溶けるように体を覆っている。
常に揺れる長い尻尾が印象的。

今では見慣れた不思議な友人。

『王子様、今日のご機嫌はいかがですかな?』

「悪くはないよ。だって今日はフレイムに会えるからね」

『それは光栄だわ!』

ニコニコ笑うフレイムに、無表情で見
上げるディニー。

この不思議で素敵な夜は、
今から始まる。
『サンディーはどう?元気にしてた?』

フレイムは私を見て柔らかく笑う。


「うん。元気だよ。ねぇフレイムの話聞かせて」


『まぁまぁ、焦らないの。僕は逃げないからさー』


「でも…フレイムが夜は短いし、急がないと、すぐいなくなっちゃう…あ…
何でもないです…早く話聞かせて」


言ってしまった言葉に慌てて口をつぐんだ。
しまったと後悔した。
途中で言い直したが、フレイムには伝わってしまっただろう。
私の気持ち。
昔の記憶。


『今日はお話はしませーん。今夜は二人の話しを聞こうと思いマス。
さーて。最近あった出来事を話して聞かせて、最初はディニー?』


フレイムはディニーを見た。
私の隣のディニーは、難しそうな顔の後に


「またサンディーを困らせた。ねぇフレイム、
僕をどうにかする薬とか作れないの?」


フレイムはうーんと唸り一言。


『僕は魔法使いだけどね、薬や魔法で治らないモノもある。
これはディニーにしか治せないんだよ。
でもね。人にもらってる優しさや情を蓄えて、うまく消化していけば、
ディニーも治るかもしれないと、僕は思うよ』


フレイムの言葉はディニーを串刺しにしたようだった。


『時間が必要。焦らなくてもいいんだよ?これはサンディーも同じだよ。
焦ってたら、うまくいかない事のほうが多いからねー』


ゆっくりでいい。それは忘れないでよ。

そう言ってフレイムは、宙をすっと移動してディニーに近づき、金色の髪を優しく撫でた。

ディニーはフレイムの言葉を一生懸命考えているようだった。
眉間のシワが増えている。


夜は短く、私達が会える時間は限られてる。
あれもこれもとフレイムに話しをしてたら、いつも時間が来て中途半端で終わってしまう。

もっと話したいのに。
もっと傍にいたいのに。

月が消える前にフレイムは、

『また月夜の晩に会いましょう』

そう言い残して

消えて行った。

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